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アートマネジメントの悩み、再び



1.アートプロジェクトと支援型組織

アートの世界、あるいは関係する「業界」は、アートマネジメントという考え方も伴って、20世紀後半に大きく拡大をしました。日本では多くの地域に美術館や音楽ホール、劇場といったものも整備され、展覧会やコンサート、公演などを人々は訪れ、こうした分野への助成・支援や人材育成の取り組みなども(十分とはいえないかもしれませんが)一定程度進んだように思います。ただ、最近は、単純にその流れだけを見れば、少々スローダウンしているともいえ、自治体の文化予算は長く減少傾向にあり、少子高齢化といったさまざまな社会環境の変化も、アートマネジメントの視点から影響を真剣に議論していく必要があると思います。

ただ、もちろん、そうした流れだけではありません。

その一つは、「アートプロジェクト」です。これは、ひと言で説明するのは難しいのですが、大著『アートプロジェクト』(水曜社、2014)では、「現代美術を中心に、おもに1990年代以降日本各地で展開されている共創的芸術活動」ということで、「作品展示にとどまらず、同時代の社会の中に入りこんで、個別の社会的事象と関わりながら展開される」というような表現がされています。こうした内容の「芸術祭」や「アートプロジェクト」が全国で多数開催されるようになりました。単に美術館でアート作品を鑑賞する、ホールでコンサートを聴く、といったものとはまったく異なるかたちで、時にそうしたことに抗うかのようなかたちで、地域・社会と関わりながら行われているのが「アートプロジェクト」です。

それはたとえば、「越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」などといった地域の「芸術祭」。自然の中や、その地域ならではの場所などに、作品を置き、そうした場所を回ったりしながらというような、単なる作品鑑賞とは異なる時間の過ごし方が提案されているようなものだったりします。こうしたあり方は、「観客」にも受け入れられ定着し、「地域活性化」という流れもあって、各地で開催されるようになりました。また、地域の課題と向かいあったり、人々のコミュニケーションを重視するようなあり方を追求する大小さまざまな「アートプロジェクト」が各地で行われるようになり、アートのさまざまな可能性が活かされるとともに、アートと人との関わり方が多様になっているということができるでしょう。

こうしたことで、まず単に「アートマネジメント」が扱う領域が非常に拡大してきました。もちろん、それまでまったくなかったわけではありません。むしろこうした分野で「アートマネジメント」に関心を持ち取り組んだ人が、量的にも多く、日本での「アートマネジメント」の議論を広げ支えてきた、ともいえます。地域に密着(時に介入、ともいえるかもしれませんが)したプロジェクトは、運営のされ方、かかわる人や組織、資源、担い手、成功のイメージ、評価といったこともさまざまで、その担い手に求められる知識やスキル、経験なども非常に多様になっています。

もう一つの流れとして、アートマネジメントという考え方への注目や期待が集まりだした90年代頃から、NPO法の制定なども受けて、各地に生まれてきたさまざまな「支援型組織」の活動を挙げられるかと思います。厳密に線を引くのは難しいですが、「アーティストの支援」「制作者の支援」「地域の芸術環境の整備」「子どもの芸術体験の場づくり」あるいは「アートプロジェクトの支援」などの特定の問題関心に沿ったかたちで恒常的な活動をしている組織であり、最近では、自治体が設置した組織である「アーツカウンシル」(名称や活動は各地で異なります)も大きくは支援型であるといってよいと思います。こうした、自ら作品の創造や上演、展示などを行うのではなく、そうした人々を支援することで芸術や社会へ貢献していくような組織の活動が行われるようになっていくとともに、そうしたことが「アートマネジメント」という分野で議論されてきました。

以上のように、いわゆる芸術・文化施設や芸術・文化団体のほかに、アートプロジェクト、そして、支援型組織の活動、という流れが見えているのが、現在であるかと思います。別の表現をすると、かかわる主体や関係先が多様化していることのほか、(アートの)「活用」への流れ、そしてプロジェクトや支援などといったかたちで「事業」の対象となっている流れ、があるといえるのではないかと思っています。

2.担い手の問題

さまざまなアートの現場で、さまざまな人が活躍しています。そこで、「アートはたくさんの雇用を生んでいる」と格好よくいいたいのですが、堂々とそういえない状況があるのも事実です。昨今、さまざまな業種で人材不足や労務上の課題が指摘されていますが、アートマネジメントを担う人材の確保についても課題があります。どのような仕事の仕方、職場の環境だと気持ちよく働けるのか、そして多くの優秀な人材を集めることができるのか。労働人口の減少や「働き方改革」などの流れを受け、この分野でもようやく問題として捉えられるようになってきており、今後、議論していかなければならない重要な課題の一つであることは間違いありません。

それは一つには、労働条件です。特にアートプロジェクトやアートNPOは、小さな組織であることが多く、事業実施のための資源獲得も容易ではない中、そこで働くスタッフの条件も良くは出来ない…という傾向が指摘されています。雇用も不安定であり、ステップアップもなかなか難しい。比較的規模の大きな組織であっても「昨今の状況ではブラックと言われても仕方ない」という職場も少なくない。世にやりがい搾取という言葉が飛び交うなか、場合によってはやりがいすらないという状況を指摘する声もあるようです。

また、(施設系では特に)指定管理者制度により指定期間が決められるということや、労働契約法で雇用期間が5年を超えると無期労働契約へ切り替える必要が出てくる、といったことを踏まえて、「3年~5年の任期で雇用され、期間延長はない」かたちで雇用されている人が多数という職場も多いようです。

そして、そもそも論として「アートと労働」というテーマもあります。たとえば、作品をつくるのは「労働」なのか、「時間をかけて良い作品をつくりたいと思うアーティストと一緒に働くスタッフはどういう状況におかれるか」といったかたちで、確かにこの領域ならではの議論かもしれません。

なお、アートマネジメントの「人材育成」に関するここ数年の特徴としては、従来から正規の課程としてアートマネジメント関係の教育を行っている大学のほかに、各地の大学がいわば公開講座として、むしろ在学生を対象とはしないかたちでアートマネジメント講座などを企画・実施しています。これは、文化庁がこうした催しに補助金を出すかたちで支援をしているためといってもよいと思われ、各地の実情や大学の特徴・強みなどを反映した講座が実施されています。

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3.テクノロジー

結びは少し違う話題を。

新たな技術の進歩・展開は、アートそのものにも影響を与えるかと思いますが、そのマネジメントにも関係しています。特に情報技術(IT)は、「アート」と「受け手」をつなぐ部分(インターフェース)に関係しており、その影響が大きいといえます。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の興隆は言わずもがなかと思いますが、私の職場でも、公演などの情報を、届けたい相手にどうすれば届けられるのか、日々悩んでいます。新聞広告、雑誌広告、ダイレクトメール、チラシ…、かつてからある手段は今どのような力を持っているのでしょう。届けたい内容や相手に応じ、WEBサイトやSNSなど、さまざまなメディア・手法を活用して、広報宣伝を工夫しています。

ほかにも、大切な技術の一つとして、主に舞台芸術系かとは思いますが、「チケット」にかかわるものが挙げられます。一昔、いや、ふた昔ほど前であれば、公演のチケットというものは、劇場や限られたプレイガイドに買いに行き、売り場ごとに事前に割り当てられていたチケットの中から席を選んで買う、という方式でした。しかし、今は技術進歩の中で、電話やネットで予約・支払いができ、最近では発券することもなく入口でスマホを見せればよい、というものも増えてきています。こうしたことを可能とするシステムのコストが下がるとともに、さまざまな設定(抽選販売や、割引など)も容易になり、お客様の利便性向上に、またマーケティングにも大きく寄与しています。ただ、2次市場と呼ばれる、チケット購入後に改めて売買する場の整備などはまだなかなか解決できていません。昨今話題になった「チケット転売問題」も、もちろんシステムだけで解決とはいきませんが、技術的要素を大きく含むマネジメント的な課題でもあるかと思います。

そして、最近では、「クラウドファンディング」がアート関係でも資金獲得(ファンドレイズ)の手段として使われています。技術的には、チケット同様、お金を動かす「決済」の仕組みが肝ですが、単にそれだけではなく、寄付の重要性の訴え方や、寄付者への特典などを工夫し、「楽しみながら寄付をする」モデルが基本にあることがポイントでしょう。こうした仕組みを活用することで、それまで単独ではなかなか難しかった、より多様で幅広い支援者、そして資金を獲得することができ、さまざまなアート関係の活動が後押しされているようです。活動に必要な資源(資金)をいかに集めるかは、アートマネジメントにおいて、今後ますます重要なテーマとなると思っています。その際に新たな技術を理解しておくことは非常に大切なこととなっていくでしょう。

また、歌舞伎や美術展でおなじみの音声ガイドのように、鑑賞の手助けをするツールもあります。最近では、各国語での字幕も表示可能な端末、聴覚障害の方向けのタブレット型ガイド、また、字幕を表示できるメガネといったものも開発されており、よりさまざまな方に、深く、楽しんでもらうための工夫が技術的な進歩に支えられながら進んでいます。

「知りやすくなる」「行きやすくなる」「支えやすくなる」…、敷居が高いと思われていたかもしれないアートを、技術進歩も活かして、より多くの人に身近に楽しんでもらい、かつ支援もしてもらえるようにしていく。進歩した情報技術が具体的に活用できるようになってきたともいえる昨今において、こうしたこともマネジメントの視点から考えていくことのできるテーマかと思います。

さて、少しだけ、「マネジメント」の視点から、今日の状況を垣間見てみました。

人々のライフスタイルにおいても、技術的なことにおいても、そしてアートの活動を支える資源や人材においても、多様化している今日、ますますどこかにマネジメントの意識が必要であり、そうした視点で日夜悩み続ける「マネジメントを担う人材」が果たす役割は大きいのではないかと思っています。

(2018年7月25日)

アートマネジメント入門 ─改稿版─ 目次

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アートマネジメント、再び
2
アートマネジメントの悩み、再び
3
ある劇場職員のつぶやき
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