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日本に寄付文化はない!?

 よく、日本におけるファンドレイジングを妨げるものとして、「欧米に比べて日本には寄付文化がない」という声を聞きます。本当でしょうか。

 2010年に日本ファンドレイジング協会が発行した『寄付白書2010』(経団連出版)では、日本の個人寄付の年間推計総額は5455億円で、米国の40分の1でした。これは英国の2分の1でもあります。こうした数字を見ると、「日本には寄付文化がない」と嘆きたくもなるでしょう。

 実は、日本にも寄付の文化はあったのです。日本の寄付について過去を振り返ってみましょう。

 天皇が直接政権を握っていた王朝時代の代表的なフィランソロピストは飛鳥時代の聖徳太子です。仏教興隆に熱心だった聖徳太子は、自ら寺院を建立し、障害者や貧困者の支援を行っていました。これが、仏教寺院を拠点とした慈善活動の始まりとなります。

 奈良時代になると、治水や橋・道路建設などの公共事業のため、仏教僧が民間から奉加(ほうが)と呼ばれる寄付集めを積極的に行いました。

 中世は権力争いの時代で、その結果、自力救済の時代となりました。そのようななか、民衆の間では、頼母子講(たのもしこう)などの相互扶助が始まりました。これは地域集団で金銭を貯蓄し貧困者などに順番で供与するという、寄付と同様の機能を持った相互扶助。島国であること、山、川、谷で区切られた地形で移動が少ないこと、農業による定住型人生が主流だったことなどから、「地縁」を基本とした「相互扶助=共助の精神」が生まれました。それが、第二次世界大戦後に産業構造が変わり、地域コミュニティが崩壊するまで、長く日本の寄付文化を支えてきました。

 なお、仏教における「寄付集め」は、奈良時代にもさかんで、この時代、曹洞宗の開祖である道元が1235年に僧院建設のために寄付を募った手紙が世界最古の「寄付依頼のダイレクトメール」とされています。(SOFII=shoecase of fundraising innovation and inspiration のサイトより)

 江戸期に登場した豪商は、「きたのう貯めて、きれいに使う」をモットーに地域への貢献を行っていました。これは、商売上はきたないといわれるほどにむだを省いて、倹約に倹約を重ねて資本を蓄えるのが商人の美徳だが、いったん商売から離れれば、人として、世のためや人のためにはできるだけのことをやるのが美徳であるとの価値観。大阪には個人の名前のついた橋がたくさんありますが、それらは豪商が寄付をして建設したもの。例えば大阪の淀屋橋は、江戸時代の豪商・淀屋が架橋し管理したものです。

 明治以降、近代化で全国規模の事業を展開して財を成した実業家・財閥は、地縁を超えて福祉施設を中心にフィランソロピー活動を展開し始めます(中央共同募金会の調査では、民間の福祉施設が6700あり、補助金、財閥や企業の寄付、皇族がそれぞれ3分の1の割合で運営)。三菱財閥創始者の岩崎弥太郎は、所期奉公(公益奉公)を基本理念として慈善活動や教育事業に熱心でした。

 しかし、第二次世界大戦の敗戦により日本全体が困窮し、財閥と皇室の解体で大口寄付者がいなくなると、そういった富裕層の寄付は低迷します。また経済復興の過程で農業から工業・サービス業へ産業構造が変化。転勤族、核家族が増えると、もともとあった地縁、血縁によるコミュニティー型の共助の精神も発揮する機会を失うこととなりました。

 そういう状態下で起こった1995年の阪神淡路大震災では、行政、企業、地縁、血縁で解決できない事態を目の当たりにして、日本中の人々の共助の精神が地縁や血縁を超えました。発生直後から被災地に全国からボランティアが集まり被災者支援を行いました。この震災を機にボランティア活動が評価され、ボランティア団体が増えるなかでNPO法が制定され、災害支援以外にも、多様な社会の課題やニーズに応えるためのNPO活動が発展することになります。

 しかし、「無償のボランティア」ということから始まったことから、相変わらず寄付は進まず、NPOは資金不足に悩みます。そうしたなかで、持続可能な民間非営利活動のために、NPOのファンドレイジング(資金開拓)力のアップが求められるようになりました。2009年に全国580人の発起人とともに日本ファンドレイジング協会が誕生したのも、そうした気運があったからです。

 さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、地震、津波、原発事故の複合的被害で、発生直後にボランティアが現地入りできなかったこともあり、皆が「なにか自分にできることはないか?」と考え、その結果、8割以上の人たちが寄付をしました。(凸版印刷株式会社『東日本大震災の影響に関する意識調査』より)

 このように、日本人は決して「寄付をしない人たち」ではないのです。にもかかわらず、NPOへの寄付や会費が集まっていないことを解決するにはどうしたらいいか...次回は、そのために必要なことを考えてみます。

(2012年1月13日)

ファンドレイジング入門 目次

1
さあ、はじめようファンドレイジング!
2
日本に寄付文化はない!?
3
日本の寄付に必要な5つのこと
4
ファンドレイジングの5つのポイント
5
アートの世界のファンドレイジング
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