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「場」のサステナビリティと2116年に向けた新たな布石



若林さんを皮切りに、名古屋の吉田さん、東京(いやアメリカ)の中西さん、そして大分の八坂さんとつながったバトン。

ずっしりとそして各地を回ってきたこのバトンをしっかり受け取り2016年初頭、東北の地にて未来の文化の風景を思い描いてみたいと思います。

トヨタ・アートマネジメントがアーティストやプロデューサーを中心とした文化のプラットフォームであることは重々承知のうえで、建築の立場から少し妄想を呟かせていただきます。

そこで、「ハコモノ」ではないけれども「場」のあり方に徹底的に拘ってみますので少々おつきあいを。

まずは簡単に自己紹介。

建築計画・地域計画が私の専門です。特に文化施設を中心とした計画・設計そして調査研究などを行っています。研究について少し具体的に紹介させていただくと、実際の建築空間の利用状況、施設の運営状況、地域の活動団体の調査などから、新たな場の計画に必要な考え方や共有空間のあり方[*1、計画手法などを実践的に研究しています。

また、これまでに計画にかかわった施設としては、演劇創造活動の拠点として知られているせんだい演劇工房10-BOX、古い講堂をリノベーションした東北大学百周年記念会館川内萩ホールなどがあります。

現在は、宮城県名取市にある仙台高等専門学校建築デザイン学科にて教育や調査研究を行う傍ら、被災地を中心にいくつかのプロジェクトにかかわっています。

せんだい演劇工房10-BOXにおけるワークショップ©せんだい演劇工房10-BOX
せんだい演劇工房10-BOXにおけるワークショップ©せんだい演劇工房10-BOX
Naoko Stoopさんの作品を使った巨大ジグゾーパズル わくわくパビリオンin名取市文化会館 撮影・筆者
Naoko Stoopさんの作品を使った巨大ジグゾーパズル
わくわくパビリオンin名取市文化会館 撮影・筆者

2011年3月11日に発災した東日本大震災。

発災から5年が経過しつつある現在。過度に急がされた感もある復興事業は、地域ごとに課題も進捗状況も異なっており、これまで以上に現場で課題を共有し対話を重ね次に進めることがより重要になってきています。

私自身も発災後は、公共文化施設を中心とした被害調査や復旧支援などにかかわることも多く、このコラムの声掛けをいただいた若林さんなどとともに、被災地の地域創造の調査等にも参加させていただきました。また今回の復興支援を象徴するキーワードであるネットワーク型の支援事業としても知られているArt Support Tohoku-Tokyo では、せんだい演劇工房10-BOXの八巻さんたちと石巻市の雄勝法印神楽の再生をめざした仮設神楽舞台の製作などにもかかわり、現場を共有することの重要性を痛感しました。

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雄勝法印神楽 2012年5月雄勝町大須(雄勝法印神楽舞の再生プロジェクト) 撮影・筆者

さて、東北の地でイチゴーゴーゼロの夢を描く若林さんからのお題。

文化の場の被災と復旧プロセスの場面を多く目の当たりにし、あらためてこれからの未来に向けて必要だと感じるのは文化の場の持続性を高める仕組みです。そこで今回は近い未来と遠い将来のそれぞれに向けた場の仕組みを妄想してみたいと思います。

1550億円は確かに巨額です。ただ復興の場にかかわる予算はそれ以上に莫大かもしれません。11年度から15年度の政府の集中復興期間の総計は約26.3兆円。復興事業は16年度以降も継続され、最終的にどの程度の国費が投入されるかは定かではありませんが、数十兆円を超えることは確実でしょう。身近な例でも研究室としても復興支援に関わっている名取市閖上地区。2000人のまちをめざす復興事業としての土地区画整理事業は約57ha、事業費は約186億円です。

沿岸部で行われている嵩上げ工事の過程とその風景は、かつてのまち並みや空間的スケールを大きく変えます。同時にそれまで有していた地域的、そして個人的な文脈そのものが、薄れる、あるいは切れてしまうこともあるでしょう。

そして、予算や事業規模の大きさは地域に大きな変化をもたらすとともに、一瞬の思考停止に陥ることもあります。

復興の内容とともに、思考停止に陥らないプロセスが重要であり、書き換えられる未来とかつての状況を「どのような回路でつなぐか」ということを日々考えさせられています。

このような背景に思いを巡らせながら、最初の妄想の柱は近い未来を見据えた場を支える仕組みです。

① 6歳からのアートによる社会貢献(800億円)

人材育成についてはこれまでも多くの試みがありましたが、ここでは1つ東北に小学校・中学校・高校・大学・大学院、そして劇場や美術館などのアートセンターを含む地域文化を担う人材を育てるための拠点づくりを提案します。これは6歳からのアートの英才教育ということではなく、多様な世代が長期間アートを媒介に社会とつながる学びと実践の拠点のイメージです。

文化の場を考える人材を育成する「場」は日常的に多様な層がつねに行き交いさまざまな文化と直結する場である必要があります。じっくり学び、実践し、地域の核となる「場」をオールジャパンでつくる事業です。

このプロジェクトでは教育だけではなく、その先の将来的な働くことを視野に入れたプログラムがつねに生産される場にしたいと思います。この学校は東北各地の小学校・中学校・高校の美術・音楽・舞踊などの各種芸術プログラムを支援するととともに、各種の公共文化施設におけるアウトリーチ事業も主体的に担います。

おそらく施設整備に340億円、各種事業等整備に40億円、年間運営費を20億円×21年として設定します。21年間は小学校に入学した子どもが大学院までを修了するまでをワンタームとして考え、開設後21年経過した時点でハード・ソフト両面の改修事業として50億円をかけて、次の21年を見据えます。全体としては約800億円程度の事業として考えます。

分野は異なりますが被災地にも少し近い例はあります。

多くの専門家の参画により福島県広野町に計画されている中高一貫校の福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校(仮称)や地域医療支援のために医学部を設置する東北薬科大学は、人材育成拠点の1つの例ともいえます。

② 伝統芸能の発掘と継承、そして保存のシステム(200億円)

次に、被災地の伝統芸能の発掘と継承そして保存です。伝統芸能にかかわる人材の多くは、それぞれの地域で生業を持っています。

震災によりこの生業が脆弱になり伝統芸能の担い手と受け手の生活基盤そのものが揺らいでいます。もちろん直接的に必要なものは、地域の産業政策や雇用政策でもあるので文化サイドからの関わりはなかなか難しいのですが、発掘と継承と保存のシステムを実効性の高いものにするには、実際の活動に対する幅広い支援と伝統芸能に対する価値を広く共有することがなにより不可欠です。

そのため公共ホールを活用した長期的に支援するソフト事業と活動スペースを仮設的に創出する事業を立ち上げます。

1つは東北地方の公共ホールを中心とした伝統芸能公演を主体とした自主事業のプログラムです。年間10本(1本約100万円)×東北地方を中心とした50施設(あるいはスペース)×20年=100億円と設定します。

もう1つは活動スペース(稽古空間)を主とした仮設的な創造活動拠点(東北地方5か所(各施設整備8億円)=40億円)と20年間のアウトリーチプログラム(600万円×5か所3000万円×20年=60億円)の実施です。

プログラムの展開次第では、現代美術や現代舞踊とのさまざまなプログラムとのコラボレーションにもなりえるかもしれません。

③ 東北の公共ホールの再生モデル(400億円)

最後は場の持続です。具体的にはまず東北地方の約50近い公共ホールの徹底的な長期修繕計画を立案します。いくつか指摘されているように日本の公共ホールは、80年代~90年代に計画された施設が多く、今後20年間にそれらの行く末が大きな岐路を迎えます。加えて平成26年度に特定天井が制度化[*2]されたことで、改修自体の必要予算が高騰し、結果的に特定天井対応のみの計画が中心となり長期的に必要な改修のあり方が検討しにくい状況にあります。公共空間の安全性を担保するための制度が、実施のハードルが高すぎて結果的にバランスの良い改修ができないという事態になっていることがあります。そのために、ハード・ソフト両面の長期計画の立案と策定をフォローするための専門家の派遣も必要となる。計画立案(500万円×50=2億5000万円)。そのなかからモデル事業として12施設×30億程度の改修事業を行い改修技術の汎用性を高めます。事業全体で約400億円を設定したいと思います。

ここまでが「場」をつくり、「場」を残し、そして「場」を支える人材を生み出し近い未来へのインフラづくりとして約1400億円です。

次に遠い将来を見据えて。せっかくなので100年スパンくらいで考えてみます。

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名取市閖上地区 撮影・筆者

この写真は職場の近くにある名取市閖上地区の現在です。

被災地のなかでは閖上地区の復興事業は遅れていると報道されることがありますが、未来のまちに向けての対話や議論がいたるところ[*3]で行われています。その閖上地区の沿岸部にある佐々直のかまぼこの被災建物が、平成28年1月現在震災遺構として認めるか否か議論が揺れています。被災地のいくつかの地区では負の遺産と未来に伝える記録のあり方が模索され、そして問われています。

今や佐々直のささかまぼこは東北を代表するコンテンツの1つですが、この佐々直が創業したのがちょうど今から100年前の1916年です。昭和大津波(1933年)や第二次世界大戦を経て、今にいたっています。100年続く文化コンテンツは将来に向けた大きな力になるはずです。

さらにその1916年から100年さかのぼった1816年。この年に足かけ16年かかった伊能忠敬による日本全国を回るフィールドワークが終わりました。いわゆる日本地図をつくる仕事の第一歩。この「計る」ことと「記録する」ことという1916年と1816年の出来事は、遠い未来を妄想するヒントになるように思います。

そこで残りのコストをつぎ込んで、100年スパンの日本の文化地図を考えてみましょう。

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閖上地区土地区画整理事業 日和山神社より 筆者撮影

④ 日本の文化地図プロジェクト(100億円)

「計る」ことと「記録する」ことに関連し、震災後の調査で強く記憶に残っている1つが某市の学芸員の活動です。発災後地域内の約300軒近くの住宅や商店などを自主的に訪問したそうです。発災前から博物館の学芸員の何名かだけは、地域のどこにどんな資料や文化財を有しているかをほぼ把握していたそうです。しかし実際に訪問できた場所は把握していた対象家屋全体の1/3程度。訪問できず流出や消滅した文化財も数多くあったそうです。

今回の東日本大震災においても重要な役割を果たした文化財レスキュー。この事業は阪神淡路大震災をきっかけに歴史学者を中心に地域内の文化財の流出を防ぐために整備された制度であると知られています。個人の暗黙知ではなく、記録を残す仕組みは復興のみならず喫緊の課題です。

そして、「現在の文化状況」を計ることでいえば、身の回りの場の在り方さえも意外とデータ化されていません。

例えば、公共ホールのような人が集まれる場所が国内に何施設あるのでしょうか?

実はまったくわかっていません。参考資料として公益社団法人全国公立文化施設協会の名簿(平成27年10月現在会員数(全国)1277施設)がありますが、地域を見渡せば500人くらいが集まれる公共的な場所はここに掲載されている施設よりも数多くあるはずです。これは劇場に関する設置法がないことが最大の理由ですが、使える場の存在を把握することは文化政策立案の第一歩です。施設以上に楽団や劇団あるいは文化にかかわるさまざまな人にいたっては、到底とらえられるものではないでしょう。

前述の伝統芸能もしかり、歴史的文化財もしかり、そもそも文化にかかわる多様な登場人物、それぞれの文化の場を俯瞰できるマップをつくることが、地味だけど遠い将来に向けた重要な布石。地域の文化資源の共有化は災害対策としても不可欠です。

ということで「場」、「活動」、「人」を徹底的に俯瞰できる日本の文化地図をつくることを提案します。

データと知恵と人脈を有するユーザーに数多く賛同してもらえればSNSを駆使し、GISなどのツールと時間的な文化状況の推移をプロットしていくことで相当なレベルが把握できそうな気もしますが、緻密に情報を積み上げるにはきちっとしたプラットフォームがなければなかなか難しい気もします。予算は検討がつかないのですが、様々な情報が日々更新可能なシステムの設計も含めて100億円。

残り50億円。もう少し東北のこれからの100年にこだわってみます。

⑤ まちを鍛える100年の祝祭づくりプロジェクト(49億円)

地域文化と集まる場としての祭りは密接な関係にあります。特に発災後の小規模な集落の復興や存続を考える場合に、地域の祭事のあり方に着目した試みや支援は非常に重要なアプローチであったと思います。

ただ地域の文化と歴史を形成する以外にも、祭りが大きな役割を果たす場合もあるのではないでしょうか。

祭りには日常とは異なる人、物、情報、そして数多くの経験が地域に持ち込まれます。これはまちを鍛える重要な機会になっているはずです。

100年近く続く東北の祭りの1つに秋田県大仙市の大曲全国花火競技大会があります。知る人ぞ知る花火師の大会です。

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河川敷に展開する観客 大曲全国花火競技大会©takaya suga

期間中は、人口数万人のまちに数十万人を超える人が全国から集まります。まちのあらゆる空き地は駐車場として使われ、コンビニの棚は水と氷だけの店舗になり、仮設トイレは千個以上、会場近くの民家は有料トイレになるなど、まちの風景は一変します。個人的にはこれをポジティブなパニックととらえています。そしてこのポジティブなパニックが毎年、それも百年近く経験することで、まちは相当鍛えられてきたのではないでしょうか。東北にはこのような祭りがまだいくつか残っています。地域と祝祭の関係を丁寧に読み込み、100年続く祝祭のあり方や仕組みづくりを含めた支援事業を49億円かけて行います。

2020年に向けてさまざまな文化プログラムが日本の各地で展開されていきますが、一過性のイベントではなく、このまちを鍛える文化プログラムとなることを切に願います。

⑥ 「誰か」による文化復興プロセスの定点観測(1億円)

冒頭の閖上地区は、来年度災害公営住宅の一期工事が竣工し、夏ごろには人が住み始めます。2000人のまちへ、また新しいステップを踏むことになりました。被災地は日々変化をしています。それぞれの地域、一人ひとり異なるストーリーがあります。もちろん全部記述することはできませんが、ひょっとすると日本あるいは世界のどこかに、この被災地の文化状況を独自の視点で冷静に、今後10年いや数十年記録し続けることができる人がいると思います。ネットTAMの推薦でも構いません。

「君こそ」という逸材に被災地の状況を、独自の視点で20年間の定点観測を行ってもらう。この取材費と記録費に最後の1億円を託します。

この妄想の結末も記述され、包括的な記録ではなく1つの文脈を長く確実にとらえることにより、この震災と文化的な復興プロセスの本質を鋭く、そしてある意味正確にとらえることができるはずです。100年後に100年先の布石を打つために。

[註]
  1. 現在仙台高等専門学校坂口研究室では公共ホールのマスタープランと共有空間の活用の研究を実践的に行っています。写真は2015年5月に行われた名取市文化会館わくわくパビリオンの巨大ジグゾーパズルの様子。2016年5月3〜4日開催予定。
  2. 吊天井で人が日常立ち入る場所に設けられていて高さが6メートルを超える天井の部分で、その水平投影面積が200㎡を超えるものを含み、天井面構成部材の質量が 2kg/㎡を超えるもの。(国土交通省告示第771号 第2)
  3. 閖上地区まちづくり協議会など復興に向けた議論が行われている。

(2016年1月22日)

今後の予定

研究室として関わるプロジェクト

  • 2016年5月3〜4日 わくわくパビリオンin名取市文化会館(主催:名取市文化振興財団)
  • 2016年2月13日 青森県むつ市新体育館基本計画第三回市民ワークショップ

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ゆりあげ港朝市
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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

東京から島根県海士(あま)町にIターンし、島唯一の高校の魅力化に取り組んできた岩本さん。地域起業家的“人財”の育成や「島留学」の実践など、「子ども・生徒」「学校・教育」の事業を見事にプロデュース。その成果は、海士町自体の魅力化にもつながっています。現在は県の教育魅力化特命官として、新たな任務に邁進中です。

なぜ、第1ターム最後のバトンを、学校教育領域の岩本さんに託したか? 一見フィールド違いのようですが、アート・文化分野でも、未来を握るのは、やはり「人」「子ども」。人づくりの結果、文化が立脚する「地域」も自ら光っていくように思います。そして、アートが内輪で固まらず、視点をずらし続けることも大事かなと。そうなればもう、岩本さんの実践に学ぶしかない!と思いました。

岩本さん、学生時代に巡ったアジア・アフリカ20カ国の地域開発現場の話や、印税でアフガニスタンに学校を建てた話も聞きたいけれど、「人」と「地域」にこだわった岩本流の未来の描き方について、ぜひ聞かせてください。ゴールテープを持ってお待ちしています!
(「もし1550億円の予算を手にしたら、あなたはどのような未来をつくりますか?」スーパーバイザー:若林朋子)

もし1550億円の予算を手にしたら、あなたはどのような未来をつくりますか? 目次

1
イチゴーゴーゼロの夢
2
イチゴーゴーゼロの使い方
3
世界一の文化大国へ
4
1550億円がなくともいずれは実現させたい妄想
5
「場」のサステナビリティと2116年に向けた新たな布石
6
人に賭ける
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