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「アートプロボノ」の発展・定着に向けた可能性と要点



「プロボノ」とは何か? なぜいま注目されているのか?

プロボノとは、社会的・公共的な目的のために、ビジネススキルや専門知識などを活かすボランティア活動を意味する。ボランティア活動というと、一般的に、イベントの手伝いや清掃活動などをイメージすることが多いが、プロボノは、企業人や個人事業者などが、仕事を通じて培った経験・スキルを活かした、いわば、ビジネスさながらの支援を提供する点が特徴である。

芸術文化団体を含む非営利組織が、プロボノを効果的に活かすことによって実現できることは、数多く挙げることができる。例えば、ファンや担い手、支援者などを広げるための情報発信を強化したいと思ったときに、ウェブサイトを改善したり、SNSを活用したり、分かりやすいパンフレットやチラシ・ポスターなどを制作したりすることが考えられる。団体内部における会員管理や経理などの事務作業を円滑化したり、ボランティアの管理や対応をより効率的にしたりするためのコンサルティングも、プロボノによって支援が可能な領域だ。さらに、団体が中長期的に目指す事業目標を設定したり、そのために必要な事業計画の立案なども、プロボノで支援できることの代表例といえよう。

プロボノの存在は、一般的に資金や人材などの不足という悩みを抱える非営利組織にとって、大変心強い味方となり得るものである。

「プロボノ」という考え方は、1980年代に米国の弁護士協会が、法律知識を活かしたプロボノ活動を呼びかけたことがきっかけで、まずは法律関係の分野で広がりを見せた。2000年代に入るとIT、マーケティング、デザイン、建築など、さまざまな分野へと拡大していった。日本においても2010年には各種テレビ・新聞等でプロボノという言葉が紹介され始めるようになった。こうしたトレンドは、世界各地にも広がり、世界各地のプロボノ活動をつなぐ組織「グローバル・プロボノネットワーク」に参加する団体を見るだけでも、世界30ヵ国以上で、プロボノの取り組みが動きはじめている。

プロボノが広がる背景にはさまざまな社会的トレンドが関係している。経営学者のピーター・ドラッカーは、著書『ネクスト・ソサエティ』において、企業などの組織の寿命が、個人のビジネスキャリアよりも短くなった現代の特性に触れ、個人が自身の時間をマネジメントすること、そして、本業以外のもう一つの仕事「パラレルキャリア」の重要性を説いている。

2016年に発刊されたリンダ・グラットンの著書『ライフシフト』を契機に、「人生100年時代」という言葉が瞬く間に脚光を浴びるようになった。定年後の膨大な時間を充実させるためにも、人生の早い段階から個人が多面的なかたちで社会参加することを提案し、「ポートフォリオワーカー」という生き方/働き方を説いている。

政府が提唱する「働き方改革」は、生産性の向上と従業員の勤務時間の短縮を図るとともに、副業を奨励することで個人の競争力を高め、あわせて、経済の活性化につなげようとする目論見がある。

平成の30年間で日本において何が大きく変わったかと言えば、個人と仕事との関係性であり、個人は自分の時間・労力・才能を「配分」する先について、より自覚的になろうとしている。その「配分」する先の一つに、社会課題の解決や芸術文化の振興といった分野が存在し、「プロボノ」という本業以外のもう一つの新しい働き方への関心が高まりを見せている。

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「アートプロボノ」と親和性の高い芸術文化団体の条件

では、「アート」はどうか。

急速に広がるプロボノのエネルギーを、受け止める用意はできているだろうか。

芸術文化団体がプロボノの力を受け入れ、活動の発展につなげていくために前提となることは何か。ここでは「スタンス」「活動内容」「組織構成」という3つの視点から、プロボノと親和性の高い、いいかえれば、プロボノの力を有効に活かすことができる、芸術文化団体の条件について考えていきたい。

①スタンス

筆者が代表を務めるNPO法人サービスグラントでは、年間100件を超えるプロボノプロジェクトのコーディネートを行っている。こうした中で、プロボノによる支援先に不可欠な条件の一つに、「団体として目指す目標が設定されており、サービスグラントの成果物によって、従来以上に、十分に多数の受益者に対して活動を拡大することが期待できること」という項目を設定している。

外部からの支援であるプロボノを活用するにあたっては、団体内部のメンバーでは十分に達成することが困難な目標があり、その手助けをする存在としてプロボノの必要性が理解されていることが前提となる。

そのため、プロボノの支援を受け入れる団体は、短期的あるいは中長期的、いずれかの時間軸の中で、何らかの成長や拡大、あるいは、活動内容の改善や深化を求めている団体でなければならない。プロボノとしてかかわる人たち(プロボノワーカー)は、「団体が困っているから」支援するのではなく、「団体が成長しようとしているから」支援するのである。

芸術文化団体がプロボノの支援を活かしていくための最初の前提として、このような、成長を志向するスタンスを団体側が持ち合わせているかどうか、が肝心なポイントとなる。

②活動内容

おなじ芸術文化活動の中でも、プロボノの支援になじむ活動となじまない活動があるだろうか。

実は、サービスグラントがこれまでに支援した実績のある団体の中には、芸術文化団体も少なからず含まれている。その多くが、社会課題に対するアプローチとして、芸術文化を取り入れている団体だ。子どもの教育や高齢者の健康づくりなどさまざまなテーマにおいて、アーティストが関わったり、芸術の鑑賞や制作のプロセスを取り入れた活動をしている団体が存在する。こうした団体の多くが、芸術文化という領域を超えて、ひろく社会の中で活動を展開していく必要を感じており、多様なステークホルダーに向けた効果的な情報発信やマーケティング、活動をより安定的に継続させていくための事業戦略などを求めている。

もう一つ、伝統芸能から現代アートまで、幅広い分野で活動している純粋な芸術文化団体が存在する。これらの団体においても、芸術文化活動への理解者・共感者を広めたり、担い手を拡大したりするといった組織経営の取り組みは大なり小なり必要となる。特に、伝統芸能のような、次世代に引き継いでいくことで地域の伝統を守る役目を担うような団体においては、活動の安定的継続は生命線となるだろう。こうした活動内容の団体は、プロボノの支援になじみやすい。

一方で、芸術文化活動の中には、アーティストの表現を突き詰めることに集中した活動、あるいは、商業的に展開し営利事業として大きく成功している活動も数多く存在する。ボランタリーな活動であるプロボノは、公共性や公益性といった非営利の原理のもとに成り立つものであるため、このように、プロボノによる支援がなじまないものもある。

プロボノの支援を受け入れるにあたっては、芸術文化活動の中でも、公共性・公益席の高い領域への支援を想定することが妥当である。

③組織構成

もう一つ、プロボノを受け入れる組織に求められることは、外部の提案を受け入れることができる体制が確保されているかどうか、である。

団体のトップがプロボノの受け入れについて理解を示しているかどうかは重要なポイントだ。あわせて、団体の現場担当者においても、プロボノという外部の力を取り入れて、活動の展開につなげていくことに前向きに考えられる状況にあることも不可欠だ。芸術文化団体の側が、組織として、外部の力を活かして新しいことにチャレンジしていきたい、という意識を共有できていることは、プロボノを受け入れるうえでの必須要件となる。

このことは、プロボノによる支援を受け入れる際の意思決定のありかたにも大きく関係する。プロボノワーカーから受けた提案について、誰がどのように受け止め、判断するのか。その役割分担が明確でないと、プロボノワーカーの側が混乱し、支援が立ち行かなくなってしまう。

組織的なプロボノの受け入れ体制の確保は、プロボノの力を活かすためにも、しっかり整えておきたいポイントとなる。

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芸術文化領域におけるプロボノモデル

前述のようなポイントへの認識が高まっていけば、芸術文化団体に向けたプロボノ、いわゆる「アートプロボノ」はさらに広がっていく可能性が高い。なぜなら、芸術文化団体の多くは、限られた資金や人材の中で活動しており、特に、芸術家が主体となっている団体の場合、ビジネスのバックグラウンドを持った人たちの存在は希少価値を持っていると考えられるからである。

そこで、最後に、「アートプロボノ」を実現するしくみについて、大きく2つのパターンをご紹介したい。

①自団体でプロボノを集める

第一のパターンは、芸術文化団体が自ら必要とするプロボノワーカーを集めるというものである。芸術文化団体は、それぞれに独特の個性をもち、ファンを抱えている。ファンの中には、さまざまなビジネススキルや専門知識を持った人が含まれている可能性がある。

今まで、いわば「お客様」として捉えてきた人など、団体の周囲にいる人たちに向けて「担い手」としての関わり方を呼びかけていくことが考えられる。

この場合、団体が求める活動内容がどのようなもので、どのようなスキルを期待しており、関わる人数や期間はどれぐらいで、発生する経費についての負担ルールはどのようになっているか、といった詳細の要件をできる限り明確にしたかたちでメンバーを募集することがプロボノを成功させる秘訣である。芸術文化団体が、自団体としてプロボノワーカーを募集するための要点や、成功のためのエッセンスの抽出は、今後に向けた研究が求められるテーマであろう。

②中間支援組織がプロボノをコーディネートする

もう一つのパターンとして考えられるのが、芸術文化の分野に理解のある中間支援組織がコーディネート役となって、芸術文化団体とプロボノワーカーとをつなぐ仕組みをつくるというものである。

具体的には、いま日本国内でも徐々に立ち上がりつつあるアーツカウンシルや、それに類する機能を持った地域の芸術文化活動を多面的に支援するような組織が、そのコーディネート役として想定される。

アーツカウンシルでは、地域のアートイベントを開催したりするほか、芸術文化団体に向けた支援策として、助成金のプログラムを運営したり、セミナーを開催したり、個別の経営相談などに対応しているケースも存在する。こうした支援策の大半が、現時点では、アーツカウンシルのスタッフや特定の講師やアドバイザー等によって行われているが、今後、より多くの市民にプロボノとしての参加を呼びかけ、さらに広範な団体支援を実現できる可能性がある。

芸術文化領域の中間支援組織による「アートプロボノ」の支援モデルの構築もまた、今後のテーマとなるだろう。

昨今、プロボノに対する関心が高まりを見せる中、芸術文化領域における「アートプロボノ」も大きく発展する可能性がある。今後、芸術文化団体や中間支援組織がプロボノを自らの力に変える実践に取り組んでいくこと、また、その成果や課題をひろく共有していくことで、「アートプロボノ」への関心や理解も高まっていくことだろう。

「アートプロボノ」は、芸術文化活動における新しい市民参加のスタイルである。より広範な市民に支えられながら、芸術文化活動がいろいろな地域で発展し、定着していくことを願ってやまない。

(2018年8月26日)

関連リンク

バトンタッチメッセージ

本シリーズでは、アートプロボノをテーマに、「ワーカーの受け入れ経験のある文化団体」(芸術家と子どもたち 堤さん、SPAC丹治さん)、「文化団体の支援経験のあるワーカー」(小木さん、西川さん)、そして「プロボノを仲介している団体」(サービスグラント嵯峨さん)にそれぞれの視点から貴重なご意見を頂いた。

ここで改めてお礼を申し上げたい。

私は、文化政策のコンサルティングを生業としており、文化庁・自治体・企業等に対して、文化芸術への支援・投資の重要性・有効性やその望ましい在り方を提案しながら、同時に、政府の公的支援が減少する(場合によっては政府の財政難に伴って劇的に)可能性も常に頭の片隅に置いている。

現状のままでは、政府の公的支援が減少した際に、文化施設や文化団体の多くはその活動が危機にさらされるのではないだろうか。

そのような事態を避けるためにも、今のうちに文化芸術分野においてさまざまな方を巻き込み、支援を得られる状況をつくっていくことが必要であると考えている。

アートプロボノという業界内では耳慣れないテーマを取り上げさせていただいた理由もここにある。

実は、今では文化業界の中で当たり前になっているアートボランティアも、1990年代に文化庁がそれを普及しようとした際には、文化施設や文化団体からかなりの反発があったと関係者から聞いている。

なので、アートプロボノも地道に普及を行っていけば10年後・20年後には当たり前に行われている可能性も十分にあると考えている。 (実際、昨年度文化庁事業においてセミナー・イベントなどを行ったあとは多くの関係者にアートプロボノという言葉を認識いただけるようになった。)

そのためにも、そのアートプロボノに可能性を感じる方々の輪を広げ、力をあわせてアートプロボノの普及に尽力していきたいと思う。 2018年がアートプロボノ元年と言われることを願って。

一般社団法人芸術と創造ではアートプロボノなど、各種文化政策にかかわる調査・コンサルティングを行っています。報告書も可能な限り公開しておりますので、よろしければご参考ください(http://www.pac.asia/watae.html)。)

アートプロボノの可能性 目次

1
アートマネジメントにイノベーションをもたらすか
2
文化団体の受け入れ事例
芸術家と子どもたち

3
ワーカーによる文化団体の支援事例①

4
ワーカーによる文化団体の支援事例②

5
文化団体の受け入れ事例(静岡県舞台芸術センター)

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「アートプロボノ」の発展・定着に向けた可能性と要点
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