ネットTAM


3

ワーカーによる文化団体の支援事例①

リレーコラム第2回ではアートプロボノを実際に受け入れている「芸術家と子どもたち」理事長の堤さんとの対談を掲載しましたが、第3回では「芸術家と子どもたち」を支援したプロボノワーカーである小木さんにバトンをお渡しします(本リレーコラムは対談形式で皆さまにご登場いただきます)。

綿江:まず小木さんの自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。

小木:テレビ視聴率を測定しているビデオリサーチという会社で仕事をしています。デジタル系のサービス事業企画をする部署で、今年の4月から課長としてプロジェクトマネジメントなどをしています。

綿江:これまで、いろいろな部署を異動されてきたのですか。

小木:はい。2010年くらいまでは一般企業から請け負ったリサーチの仕事を中心にしており、その後、仙台に転勤し2年間在仙テレビ局への営業をしていました。東京に戻ってきた後は、シニアや若者の生活者研究をしていて、2年間だけ、外部企業に出向し、その後、今の業務に至ります。

綿江:これまでボランティアの経験はありましたか。

小木:仙台への赴任時に起きた東日本大震災後をきっかけに、「スコップ団」という山元町での泥かきのボランティアチームに参加したのが最初の経験です。1年間くらい、週末土日はその活動を続けました。仙台では当初、知り合いもいませんでしたが、「スコップ団」を通じて友達もできて、たまに飲む仲にもなりました。
東日本大震災が起きてからの6日間、会社では仙台地区のテレビ視聴率データが止まってしまいました。それは会社としては一大事だったのですが、自分にとっては「自分の仕事がどう社会に役立っているのか」がわからなくなってしまう出来事でもありました。そのときにボランティアを体験し、充実感を得ました。

綿江:その後、サービスグラントに登録をしたんですね。

小木:東京に戻ってからビジネススクールに通いました。以前よりサービスグラントのチラシはずっと持っていて、いつかやろうと思ってはいたのですが、ビジネススクールを卒業して時間ができたタイミングでサービスグラントに登録しました。

綿江:サービスグラントに興味を持った理由はなんですか。

小木:支援形態がプロジェクト型だったのが大きいですが、サービスグラントのパンフレットをたまたま持っていたからで、そのパンフレットがお洒落だったので(笑)。デザインに凝れないNPOが多い中で、センスを感じました。スコップ団にも通じる話です。

綿江:どの団体を支援したいという希望があったわけではないのですか。

小木:はい。自分が人生をかけて解決したい社会課題というのが明確にあったわけではなく、ただ何かの役には立ちたいという気持ちがあったので、いろんな課題に触れあってみたいと思いました。支援していくうちに解決したい課題が見つかれば、運営側に携わることを考えてもよいとも思っていました。そこで一歩を踏み出しやすかったのがサービスグラントのプロジェクトのやり方だと思います。

綿江:登録からプロジェクト参加まではどのような流れなのですか。

小木:サービスグラントでは定期的に大きなプロジェクト発表会があり、私はスキル登録をしてから春のプロジェクト発表会に参加しました。10数個の新規プロジェクトの紹介が行われ、その後、自分の興味のあるミーティングに参加して、参加の意思と希望するポジションを伝えます。

綿江:プロジェクトが複数ある中で「芸術家と子どもたち」を選んだ理由はなんでしょうか。

小木:3つ理由があります。一つ目は、私の地元が豊島区でエリアが親しみやすかったことです(「芸術家と子どもたち」の拠点も豊島区に存在)。2つ目は、場づくりをやっている団体が好きで、自分の価値観と合っていました。最後は、ハッピーな感じがしたことです。「芸術家と子どもたち」という名前からも、課題感というより楽しいこと、子どもたちの笑顔をつくっているようなハッピーなイメージを抱きました。選んだ時点では、正直団体にどういう課題があるのかはわかっていませんでしたが、子どもたちにアートの楽しさを伝えるというようなポジティブなイメージを持ちました。

綿江:NPOはマイナスをゼロにするという活動を行っているところが多いですよね。芸術はプラスにする活動が多いかもしれない。

小木:ワークショップを通じて、マイナスな状態にあるお子さんたちをゼロやプラスにしていけることに気づきました。児童養護施設の中に入って子どもたちに触れあう機会は、普通に仕事をしていたら絶対にない。そういう子たちを助けるためにこのような活動が必要なのだということを認識できたのは大きかったです。

綿江:ワークショップの現場にも足を運ばれたとおうかがいしました。

小木:プロボノプロジェクトとして寄付プログラムをつくるうえで一般の小学校や児童養護施設でワークショップをする必要性を知りたかった。実際にそれを見学して確認したいと思いました。

arts-pro-bon-3-interview.jpg

綿江:普段はそういう経験はまったくないですよね。プロボノに参加してみて、得たことや、大変だったことはなんでしょうか。

小木:得たものは、仕事を通じてはみることができない課題、景色、情報、人に触れることができました。普段ニュースを見るときにも、想像力が働くようになり、視野が広がりました。プロジェクトを進める中で、普段は触れ合わない企業の方と協働することで、まったく知らない企業文化や違う職種の働き方を知ることができ、自分の仕事にもつながりました。こちらが提供できたこともあったと思います。メンバー構成にもバラエティがありました。 一方で、みんな忙しいので、打ち合わせのスケジュール調整がとにかく大変でした。2~3週間に1回くらいの頻度で設定しましたが、それくらいが限度でした。ただ、メンバーの年齢が近かったこともあって、終わった後は毎度飲み会をしていました。

綿江:プロボノに参加する意味合いとしては、そのような刺激的なコミュニティに参加できるということもあるのではないかと思います。

小木:友人関係として得たものとしてとても大きく、今でも付き合いが続いています

綿江:支援対象が文化団体だからこそ得られたものはなんだと思いますか。

小木:私はアートに親しみがなかったので、アートがこういうツールになりうるんだというのは発見でした。アートは鑑賞するもので「一方的」というイメージがあるので、「相互作用」があるのはすごくいいなと思いました。ともすると高飛車で一部の人しか楽しまない閉じられた世界だと思っていたのが、こういう使い方をすることで、こんなに人を巻き込むことができるんだと。

綿江:アートプロボノが文化団体で進まない理由はなんだと思いますか。

小木:今回の経験がなかったら、アートプロボノといわれてもそもそもイメージが湧かないと思います。アートである必然性がないという気がしてしまいます。「なぜアートなのか」という問いに対してシンプルに答えられる何かがあるとよいと思います。困難な社会課題に真正面から向き合うプロボノを行う人も多いと思いますが、私としてはそれでは息が詰まってしまうことがあるのではと思っていて、アートには遊びや豊かな部分があるのがいいなと思います。

綿江:そういうのはアートの得意なところかもしれないですね。小木さんはどういうポイントを見極めて団体を選定していますか。

小木:「期間」、「場所」、「興味」で選びました。「期間」については、ある程度長期間かけて深くコミットできるプロジェクトを求めていました。また、「場所」については支援において遠方に通うことでヘトヘトになるのは避けたいと思ったので、ある程度通いやすい場所を選びました。「興味」としては、込み入ったテーマより、ある程度普遍性があったり、自分に近しかったりする課題に向き合いたいと思いました。

綿江:相手の団体自体の経営や、進め方に期待したことはありますか。

小木:「芸術家と子どもたち」理事長の堤さんには、我々のことを見守って、尊重してくれる姿勢がありました。信頼して任せてくれたのは大きかったです。あと、色々な人の声をヒアリング結果としてまとめて堤さんに伝えたら、「やっていることの価値を客観的に知ることができた」といってくれたことがうれしかったです。なんとなくはわかっていたけれど言葉として伝わっていなかったことを、私たちが媒介になって伝えられたのはよかったと思います。

綿江:最後まで続けるモチベーションが持てたのはなぜですか。

小木:初期段階からメンバー同士が友達に近い距離感になれたので、一緒に楽しみながら進める感じがあったからかもしれません。役割が明確に分かれていたので作業分担ができ、一方でそれに固執もせず、お互いに助けあいながら進められました。 また、5月から12月までの期間で、終わりが見えていたのもよかったです。プロジェクトのスコープ、範囲を最初に団体さんと共有するのが大事な点です。

綿江:もともと団体を特定してそこを支援するというイメージはなかったですか。

小木:私はなかったですね。まず、探し方がわかりませんでした。団体さんのWebサイトがしっかりしていないことが多いので。それこそプラットフォーマー(サービスグラントや二枚目の名刺などプロボノの仲介を行う団体)が交通整理をする仕組みがしっかりしていると、団体のためにもワーカーのためにもなるんだと思います。スコープが明確じゃなかったり、団体運営の手足がほしいだけだったりすると、ワーカーが疲弊すると思います。 団体側もプロジェクトのマネジメントは結構リソースが割かれるはずで、そこをサービスグラントがサポートしてくれるのはありがたかったです。

綿江:今後もし機会があれば、アートプロボノにまた参加したいですか。

小木:はい、ぜひそう思います。子どもたちと触れ合うのは楽しかったです。アーティストが行うワークショップの最終日には別れが悲しくて泣いてる子がいたんですが、それだけ踏み込みこんだ活動を行っている団体を支援するプロジェクトにまた参加したいです。

綿江:本日はどうもありがとうございました。

(2018年5月22日)

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

次回も、ワーカーに目を向け、NPO法人芸術資源開発機構(ARDA) を支援した西川さんにお話をおうかがいする予定である。アートプロボノにかかわるさまざまなモチベーション・可能性などを探っていきたい。

*:「アートワークショップ」、「アーツ×ダイアローグ」などを行っている団体。

アートプロボノの可能性 目次

1
アートマネジメントにイノベーションをもたらすか
2
文化団体の受け入れ事例
芸術家と子どもたち

3
ワーカーによる文化団体の支援事例①

4
ワーカーによる文化団体の支援事例②

5
文化団体の受け入れ事例(静岡県舞台芸術センター)

6
「アートプロボノ」の発展・定着に向けた可能性と要点
この記事をシェアする: