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文化団体の受け入れ事例

芸術家と子どもたち



リレーコラム第2回はアートプロボノを実際に受け入れている「芸術家と子どもたち」理事長の堤さんにバトンをお渡しします(本リレーコラムは対談形式で皆様にご登場いただきます)。

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ヒアリングの様子

綿江:「芸術家と子どもたち」ではアートプロボノにてWebサイトを作成されたということですが、詳しくおうかがいできますか。

:「芸術家と子どもたち」は2000年に活動を始め、3年後ぐらいに開設したWebサイトはスタッフがつくった簡易的なものでした。そのころは、小学校にアーティストを派遣する事業を行っていて、学校の先生向けにシンポジウムなどを開催しつつ口コミ的に広がっていったので、あまり不特定多数に向けて広報をする必要もありませんでした。
その後、少しずつ規模も大きくなり2005年ころから親子向けのワークショップも始めて、そこで広報にも力を入れることを考え始めました。また、行政との協働事業もするようになり、活動を広く知ってもらうためにWebサイトが重要になってきました。
プロボノという言葉も当時はまだ知らなかったときに、2010年、弊団体のスタッフがたまたまサービスグラントさんのことを知って、代表理事である嵯峨さんとお会いしました。

綿江:プロジェクトはどのような形で進んだのですか。

:技術的な支援だけかと思っていたら、団体の関係者、学校の先生、地域の方々にインタビューをし、団体としての強みや弱みからリサーチしていただきました。

綿江:期間はどのくらいだったんでしょうか。

:約9カ月でした。9カ月のうち、弊団体のヒアリングやページ構成を前半に行いました。中間地点で、サイトのイメージを提案いただき、意見交換をしました。その後、Webサイトに掲載するテキストを整えたり、過去のデータを調べたりして、サイトをつくるための情報をお渡しするのに時間がかかってしまいました。その辺はメールでやりとりしました。

綿江:プロジェクトチームはどのようなスキルを持った方で構成されていましたか。

:関係者へのヒアリングを主導してくださったのは、マーケティングをメインに仕事をされている方でした。チーム構成のノウハウはサービスグラントさんにあるので、こちらがイメージできていなくても、専門性のある方のチームを組んでいただいて、最初のミーティングに臨むことができました。

綿江:すべてのワーカーの方が最後までずっとアクティブなのでしょうか。

:それぞれの段階ごとに、最初はマーケッター、後半になってくると今度はコピーライターやデザイナー、プログラマーの方のコミットが強くなりました。

綿江:寄付プログラムの設計をお願いしたのは去年でしたよね。

:そうですね。弊団体としてほとんど手をつけていなかった個人寄付をどう集めるか、クラウドファンディングが巷では話題になっていますが、「もし活用できれば」という感じでお願いしました。
キックオフプレゼンテーション、中間報告、成果報告などがありました。最初の時点で、プロボノワーカーの方も相当下調べしてくれていて、認識に間違いないかを確認したうえで、何を重点的にやるかを決めていきました。
皆さん相当忙しい方々で、コミュニケーションは基本的にネット上で行い、打ち合わせは平日19時から21時くらいまで行い、そのあとプロボノチームでは飲みに行って、結束を高めていたようでした。

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ワークショップの見学にきたプロボノワーカーが自然と子どもたちとの活動に参加した様子

綿江:堤さんも毎回打ち合わせに出ていましたか。

:もちろんです。私以外にも別のスタッフが2人ほど同席していました。最後はプロボノワーカーの方と打ち上げも行いました。

綿江:受け入れる負担もそれなりにあるのでしょうか。

:それはその通りで、やってもらうからにはこちらも本気でやらないと受けきれなくなってしまいます。最初のWebサイト作成の際も、ある時期はそればかりやっているスタッフもいました。でも自前でつくることと比べれば、よりよくするために時間をかけるのは当たり前ですよね。今回もやるからには絶対に成果をあげようという気持ちで申し込みをしました。

綿江:2つのプロジェクトをやってみて、どのような点がよかったと思われますか。

:成果物がきちんと出てくるのはよかったですね。また、自分たちの活動を客観的に見直したり励まされたりする機会にもなりました。

綿江:普段はビジネスマンとの接点はないのでしょうか。

:ないですね。弊団体の活動だと丸の内に行くことはありません。企業の社会貢献セクションの方とお会いする機会はありますし、私自身も比較的大きな企業で10年勤めたあと弊団体を立ち上げたので、組織に属している人を想像することはできます。でもそういう経験をせずにアート業界に入ったために、ビジネスマンを想像しにくいアート関係者は多いと思います。
今回の寄付プログラムのチームを見ると、世代も若い。こういう世代が出てきたんだなと感じます。仕事もバリバリやりながら、個人的な関心から社会により貢献していきたいという世代。

綿江:この2つのプロジェクトで、ワーカーの方に何を提供できたと思いますか。

:学校の先生、児童養護施設の方と会ったり、ワークショップに参加してもったりすることで、普段あまり接点のないそういう世界の現場を肌で感じる機会にはなったのではないでしょうか。おもしろがってくれました。ヒアリングに行ってもらうからには、ちゃんと話ができて弊団体の活動にも理解をしてくれている個性的な関係者やアーティストを紹介しました。

綿江:まだまだアートプロボノの事例は少ない中、ワーカーの方からみて「芸術家と子どもたち」を支援したいと思った動機はどのようなものだったのでしょうね。

:具体的に皆さんがどう思われていたかはわかりませんが、弊団体の場合は比較的何をしているのかというのが、わかりやすかったのかもしれないです。
児童養護施設だったら児童虐待という社会的背景があり、施設の子どもたちにとっての自立という観点から学習ボランティアが大事になってくると同時に、彼らの心持ちやコミュニケーション、自己肯定感に対してアーティストにできることがある。そういうストーリーはある程度共有できるわけです。
まず物語として共有しつつ、そこから具体的な団体の事業内容に関心がつながれば、プロボノに興味をもってもらえるのではないでしょうか。もちろん、単にアートが好きな人はいるにはいると思うが、それだけだと動機としては厳しいと思います。

綿江:社会課題と必ずしも接続している必要はないと思いますが、何をしたい団体なのか、ミッション・夢のようなものが明確であることが前提となるのかもしれませんね。
プラットフォーマー(サービスグラントや二枚目の名刺などプロボノの仲介を行う団体)を介してアートプロボノを行う場合と、個別の文化団体に共感して個人として直接支援するという場合がありますが、「芸術家と子どもたち」ではどうして前者を選択したのですか。

:「芸術家と子どもたち」では普段からボランティアの受け入れも行っていますが、まったく知らない方の場合、念のため応募の動機をうかがうようにしています。団体として子どもを扱っていることもあって、面識のない方を受け入れるのはなかなかハードルが高いです。専門能力に期待するプロボノの場合は、なおさら何がしかの保証がほしくなります。その点、サービスグラントさんだったら信頼できます。

綿江:団体の代表の相談に都度都度乗るといったアートプロボノの形もあるのかなとも思っているのですが。

:プロボノという形ではないですが、理事の方々も、ある意味専門性を提供してくれている方々です。理事の方がお金を集めてきてくれているNPOもあるのではないでしょうか。

綿江:そもそもこのインタビューをさせていただいている背景ですが。「芸術にかかわる仕事をしたいが、食べていけるかが不安です。どうすればいいでしょうか」という学生も多い。そのゼロとイチとの間のグラデーションをつくっていかないと、サステナビリティのある業界にならない。突破口として、専業でなくてもよいので優秀な人材にかかわってもらうという方法があるのではないかと考えています。

:アート業界でそんなに就職の口が年中あるわけではないですしね。そのグラデーションが、アートの底を支えてくれる1つにはなるのかな。広い意味でアート・文化に関心がある人は多いと思いますが、それが業界とは別の話になってしまっているのがもったいないです。

綿江:日本の文化はもともと一般市民が支えていて、祭りなんてかなり踏み込んだボランティア以上のことをやっていますよね。会計をやったり、ファンドレジングまでやったり。

:神田祭なんてすごいですよね。あれをやることが生きがいのような。あれだけのイベントを運営するのはかなりのノウハウがあるはずです。

綿江:まさにそうですよね。さまざまな文化の世界でプロボノは行われています。プロボノを通じて、団体の意識変革にもなるのかなと思っています。

:今回のプロボノワーカーの方も、こういう世界をこれまでは知らなかったようです。そもそもアーティストがこういう学校や児童養護施設の中に入っていることをご存知なかったが、それを知っていただきました。

綿江:団体のパブリックリレーションズという意味もあったかもしれないですね。

:ファンドレイズを目的として動いたことが、結果として一種の広報につながりました。

綿江:何かをしてもらうだけではなく、普段接点のない人の中に伝道師をつくっていく。

:お金を介さないからこそ知り合えない方と知り合い、ディスカッションをするのは楽しいことですよね。大変と思わないで、気軽にやってみてもらうのがよいかもしれません。お金が絡んでないので、途中で断ってしまってもよいわけです。受注発注の関係じゃないからこそ、いい関係が築けるかもしれない。

綿江:団体もワーカーの方も両方、もう少し気軽にかかわろうとするのがよいですよね。得るものは何かあるはずです。

:そのときに、一方的に「タダでやってもらえるんでしょ?」というスタンスではなく、互いのことを理解しようとしないといけない。
サービスグラントさんみたいにチームを組むと、ワーカーの方同士の異業種交流にもなります。ワーカーの方にとって、よその会社のことがわかる。個人でプロボノをするより、こういうチームでやる方が、そういうメリットがあります。

綿江:なるほど。異業種交流の手段にもなりうるのですね。本日は色々なお話ありがとうございました。

(2018年4月24日)

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

次回は、ワーカーに目を向け、実際に芸術家と子どもたちのプロボノ・プロジェクトに参加を行われた小木様と、文化団体の支援の動機・意味合いなどについて、引き続き対談形式にて詳しくお伺いさせていただく予定である。

アートプロボノの可能性 目次

1
アートマネジメントにイノベーションをもたらすか
2
文化団体の受け入れ事例
芸術家と子どもたち

3
ワーカーによる文化団体の支援事例①

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