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アートマネジメントにイノベーションをもたらすか



イベント「アートプロボノってどうやるの?」(2018年1月20日)

本シリーズでは「アートプロボノ」の可能性について検討していきたい。「アートプロボノ」とは、「アート領域(美術、演劇、音楽、舞踊、伝統芸能、大衆文化等)において、各人が持つ専門的なスキルを活かして行うボランティア活動」のことで、必ずしも、無償だけではなく、一般相場よりも安価で支援してくれる活動も含めた概念である*1

*1:文化庁と一般社団法人芸術と創造による定義

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現在、「プロボノ」(アート領域に限定しない活動)は追い風の中にある。政府は多様な働き方を可能とする社会を目指し「働き方改革」を推進しており、この流れのなかで、長時間労働が是正され、あわせて兼業を解禁する企業が増えれば、余暇時間にプロボノ活動を行うというニーズもさらに高まっていくと考えられる。そのほか、企業では多様性がある人材を育成したいという考えから、プロボノ活動を推奨する動きも増えている*2

*2:日本電気株式会社、パナソニック株式会社、日本マイクロソフト株式会社、株式会社三井住友フィナンシャルグループ、日本IBM株式会社等多数。

アート関係者の認識としては、業界におけるこの「プロボノ」の受け入れが進んでいないとのことで、昨年度と今年度で文化庁とともにニーズ調査やその普及に向けた実証実験を行った*3

*3:文化庁「専門人材による文化団体における社会貢献活動調査(平成28年度)」、文化庁「「アートプロボノ」の普及に向けた調査検証事業(平成29年度)」(ともに一般社団法人芸術と創造が受託)

筆者は「アートプロボノ」がアートマネジメントにイノベーションをもたらす可能性があるのではないかと考えている。期待する可能性はいくつかある。

一つ目は「アートへのかかわり方の拡張」の可能性である。アート領域では、アーティストだけではなく、その従事者も必ずしも報酬・労働環境面で十分に満足できるような状況にあるとはいえない状況にある*4。より優秀な人材にコミットしてもらうためには、これが大きなボトルネックの一つとなっており、この改善に向けてさまざまな団体が活動を行っているが、状況が好転するにはそれなりの時間がかかりそうである。

*4:これらの状況の詳細は、NPO法人Explat・一般社団法人芸術と創造が共同で行った「舞台芸術に関わるマネジメント専門人材の労働環境実態調査2016」を参照されたい。

そもそも文化芸術にかかわる仕事をしたいと考える際に、多くの人々が「厳しい労働条件を受け入れてアート業界で働く」か「文化芸術にかかわる仕事をあきめる」という2元論のなかで選択しているように感じられる(アートマネジメント系大学の先生からは「特に最近は、大学・大学院を卒業・修了しても業界内での就業を選ばない学生が増えている」という声をしばしば聞く)。

文化芸術へのかかわり方は、「1 or 0」(イチゼロ)ではなく、よりグラデーションがあってもよいのではないか。文化芸術で「食べづらい」という事実がある現状では、「食える環境に身を置きながら文化芸術に携わる」という選択肢が用意されていれば、当人たちの自己実現にもつながるであろうし、優秀な人材が関与することにより文化芸術業界の底力は上がるのではないだろうか。

2つ目は、「外部の力による文化団体の意識改革」の可能性である。文化庁をはじめとした行政では文化芸術の振興において、その基礎となる文化団体の経営力のレベルアップを図るため、アートマネジメント研修に注力してきた。これらは業界内の人々が講師となり行われることが多いが、業界内部の方々は経験に基づく固定観念もあると考えられ、そのような研修による意識改革のみでは限界もある。意識改革においては、必ずしも業界の価値観に染まっていないビジネスパーソンを受け入れることも一つの有効な手段となりうる。

3つ目は、「他分野との連携促進」の可能性である。文化芸術基本法(平成29年6月施行)では、文化芸術の「観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業」などとの連携が強調されている。このような多様な分野との連携を推進するにあたっては、業界内部の専門性だけでは限界があり、むしろすでにその専門性を持った人材を受け入れていくことが有効である。

アートプロボノを促進するにあたっては、支援を行うワーカー、そしてワーカーを受け入れる文化団体のそれぞれに十分なニーズが存在するかが問題となる。

まず、ワーカーについてであるが、昨年度行った調査によれば、会社員等の有職者のうち約10%がこれまでに「専門的知識や技術を活かしたボランティア活動(プロボノ等)」を経験しており、約24%が経験したことがないが、今後経験してみたいとしている。プロボノ自体への関心は高い。

専門ボランティアの経験/経験希望割合
専門ボランティアの経験/経験希望割合
出所)文化庁「専門人材による文化団体における社会貢献活動調査」(受託:一般社団法人芸術と創造)

また、プロボノを経験している/今後経験したみたい専門人材では、今後支援する可能性のある分野として「文化芸術」が上位に位置づけられた。ワーカー側には十分なニーズがあると考えられる。

今後支援の可能性のある分野
今後支援の可能性のある分野
出所)文化庁「専門人材による文化団体における社会貢献活動調査」(受託:一般社団法人芸術と創造)

文化団体については、ヒアリングにより受け入れテーマとしては「法務・会計」、「外国語会話・翻訳」、「経営全般の相談相手・経営診断」、「ファンドレイジング・会員・顧客管理」、「調査設計・分析」、「人事・労務管理」に関心があることがわかっている。

しかし、業界全体でみると文化団体の受け入れのニーズは限定的である。たとえば、文化庁事業にて昨年12月、今年1月と2度にわたって行ったアートプロボノにかかわるセミナー・イベントでは、文化団体への周知が進んでいたにもかかわらず、文化団体担当者よりもワーカーの反応がよかった(参加者数がワーカーのほうが多かった)。

また、セミナーでは、NPO法人サービスグラント、NPO法人二枚目の名刺といったプロボノを仲介する団体からも、「そもそも文化団体からの問い合わせや登録自体が少ない」との言及があった*5

*5:NPO法人サービスグラントではこれまで200件を超える団体を支援してきているが、支援団体の活動分野としては「子ども・教育(65件)」、「医療・福祉(61件)」などが多く、「文化・芸術(12件)」は他分野と比べて少ない。

これには、文化芸術関係者には「プロボノ」という概念そもそも浸透が薄いうえに、「外部人材を受け入れることに抵抗がある」、「そもそもマネジメントに対する高い意識を持った団体が少ない」といった要因もあろうかと思う。文化団体の意識改革とアートプロボノの普及は、いわゆる「鶏が先か、卵が先か」の関係にあるが、少なくとも直接プロボノについてお話させていただいた文化団体の多くは、その価値を認識いただいていた。

以上のような背景から、本リレーコラムは「アートプロボノ」の認知向上を目指して、すでにプロボノワーカーを受け入れた経験のある文化団体の担当者、そして文化団体を対象にアートプロボノを行ったことのあるプロボノワーカーなどに、筆者によるインタビュー形式で詳しいお話をいただき、その内容を掲載していく予定である。

セミナー「アートプロボノってなんだ?」(2017年12月12日)
セミナー「アートプロボノってなんだ?」(2017年12月12日)
イベント「アートプロボノってどうやるの?」(2018年1月20日)
イベント「アートプロボノってどうやるの?」(2018年1月20日)

2018年3月26日

次回執筆者

NPO法人芸術家と子どもたち 理事長 堤康彦さん

バトンタッチメッセージ

子供たちと現代アーティストとの幸せな出会いを創造することをミッションとしている「NPO法人芸術家と子どもたち」さんでは、すでにアートプロボノを受け入れた経験を持つ数少ない文化団体の一つである。

1回目はウェブサイトの制作(2010年)で、2回目は寄附プログラムの計画立案(2017年)で受け入れられたと聞いている。理事長の堤さんには、昨年12月に実施したセミナー「アートプロボノってなんだ?」にもご登壇いただき、プロボノのよい点・悪い点などをわかりやすくお話いただいた。次回コラムでは、より踏み込んだアートプロボノの具体的な内容について堤さんからお話いただく予定である。

アートプロボノの可能性 目次

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アートマネジメントにイノベーションをもたらすか
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