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立ち向かうのもいい。でも、まずは生き延びよう。

「新型コロナって、クルマみたいね」「じゃ、進化したらマークⅡ?」という軽口を叩いていたころが、もはや懐かしいわけですが、未知のウイルス相手では長期戦になるのは予想されたこと。しかも世界中が見舞われている。だから、なるべく消耗せず、生き延びることを考えるしかなかろう、というのが僕の考えです。今日は、オーケストラの話。

僕が勤務する東京都交響楽団(都響)は、1964年東京オリンピックの記念文化事業として、1965年に東京都によって創設されたプロフェッショナル・オーケストラです。歴史は浅いものの、こんにちでは、光栄にも日本を代表するオーケストラの一つと評されています。現在の音楽監督は、指揮者の大野和士です。

東京都の外郭団体(公益財団法人)で、都から毎年10億円あまりの補助金をいただいています。これは、とりもなおさず都民の税金です。このことが都響の性格を決定づけており、比較的安定した活動が行える利点がある一方、自治体特有の事情により翻弄されることもあります。

さて、そんな都響も、COVID-19のせいで、2月26日の依頼公演を最後に、ほぼ4カ月半の間、一切の公演が中止になりました。8月に予定していた欧州ツアーも当然中止。また、都響の創立以来の重要な事業である、東京都内の小学校・中学校・高校を対象に年間50公演以上行っている音楽鑑賞教室も、今年度はすでにそのほとんどの中止が決まっています。収入面でも大きなダメージですが、なにより、子どもたちにオーケストラのライブを聴いてもらえないのは、残念でなりません。

100人近い人間が密集し、息を吹き込んで鳴らす管楽器も含むオーケストラは、コロナ禍下にあってはリスクの塊にしか見えないわけで、世界中の多くの楽団が活動停止を余儀なくされています。
それでも、5月になるとドイツの有力楽団などが科学的な検証を行い、無言で演奏する限りは飛沫によるリスクはそれほど高くないことが、具体的な奏者間隔とともに報告され始めました。

これは、都響もやらねば。希望する楽員を募って、何パターンかの奏者間隔で演奏し、公演再開に備えて都響モデルを探ろう。オーケストラの努力を世の中にも知ってもらえるよう、マスコミに公開しよう。ということで5月下旬、緊急企画「東京都交響楽団と東京文化会館によるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)影響下における公演再開に備えた試演」を始動させたところ、大野和士のリーダーシップと人脈で、微粒子工学の専門家や、感染症専門医を含む複数の医療関係者、ついには歌手まで、続々と協力を申し出てくださって、当初のプランをはるかに超える本格的プロジェクトとなりました(6月11日・12日実施)。

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管弦楽試演の様子。通常よりも奏者どうしの間隔をやや空けたセッティング。(2020年6月12日/東京文化会館)
©Rikimaru Hotta

長く欧州を拠点に活躍している大野は、やるからには世界に向けてという発想で、都響の試みは日本のオーケストラを代表する重要なものと位置づけ、我々の意識を高めてくれました。3月の定期演奏会を指揮するために来日したものの、中止になったままヨーロッパにも戻れず、日本に滞在していてくれたことは、都響にとっては幸いでした。

なにしろ発案から実施まで2週間ほどという短期間での準備でしたから、ここに書くのも面倒なほどいろいろありましたが、試演の結果を「行程表と指針」というかたちで報告・公開できたことで、一定の役割を果たせたのではないかと思っています。この「行程表と指針」(日本語版/英語版)は全文を下記のリンク先でお読みいただけます。

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公演再開。オーケストラのセッティングはやや広め。座席数2000に対し、入場者数約600人に制限。座席も間隔を空けて販売。(2020年7月12日/サントリーホール)
©Rikimaru Hotta

6月中旬以降、各地のオーケストラが徐々に公演を再開させています。都響も7月12日と19日に久しぶりの公演を大野の指揮で開催しました。満席には程遠いお客様ながら、大きく温かな拍手は本当にうれしかった。やはりライブはいいものだな、とあらためて思いました。しかし、海外のアーティストが来日できない限り、プログラムは多彩さを欠き、客席への入場者数制限がある限り、演奏会をやればやるほど赤字なのも事実。楽団の財政難と、感染への怖れは続きます。

そもそも、クラシック音楽(特にオーケストラやオペラ)はコンテンツとして完成されすぎており、“新しい生活様式”に即応するのは容易ではなく、正直に申し上げて無理もあります。だからといって、音楽は社会に必要だからなにがなんでも演奏会をやるぞと主張するのも、今は違います。長期戦が消耗戦になってはいけません。しばらくは、演奏会をやる元気と、時にはやめる勇気、そして少しのアイデアをあわせ持ちながら、この困難な状況を生き延びる方法を探るのです。やがて人々が安心して音楽会に足を運べるようになったときにこそ、オーケストラ、そして音楽は、人生に必要なものだと思ってもらえる演奏をするために。

(2020年7月27日)

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今後の予定

  • サラダ音楽祭
    9/5(土)14:00 東京芸術劇場「OK!オーケストラ」
    9/6(日)16:00 東京芸術劇場「メインコンサート」
  • 都響スペシャル
    9/12(土)14:00 サントリーホール
    9/16(水)19:00 サントリーホール

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