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COBRA video artist / XYZ collective director

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 新しい事が起こる予感、もうすでに海に浮いている。
 それは、良い事象かもしくは悪い事象と。ときめく。

 "あぽかりぷす"

 1992年7月、船橋の小学校。浦辺(ウラン)という男の子がいました。ある日彼は朝礼後、体育館と校舎をつなぐ渡り廊下にいつもつるんでいる連中を集め大々的な発表をしたのでした。
 浦辺は、おもむろにポケットから固いスチールの空き缶を出し地面に置きました。その一連の所作は、反復に反復を重ねたような、一定の美しさがあり、地面にキスをするような優しささえも持っていました。そしてその空き缶は、千葉を含めた関東近郊限定発売であったジョージアのMAX COFFEE(通称マッカン)だったのです。(このコーヒーは非常に甘いので、当時の小学生にとっては唯一、大人を疑似体験できる憧れの代物でした。)
 彼らのうち一人が反射的に「マッカンだ!!」と口に出してしまいました。すると浦辺は、ここは美術館ですのでお静かにご鑑賞ください、と言わんばかりに冷ややかな視線をそいつに送りました。そして次の瞬間、彼はその場にいる連中を恐怖と高揚が共生する、魅惑ときめく奈落の底へと突き落としたのでした。足のつま先を高々と上げかかとを中空へ、一同が目を疑うような行為、そしてかかとは、きれいな円弧描き直下へと振り落とされたのです。マッカンは見事に潰れました。
 浦辺をのぞいた全員が、驚愕の表情で地面に這いつくばるそれを見つめます。いつも自動販売機の上位に位置し、大人への憧れを持つ彼らの視線を集めていたそれ、しかし幻想は一瞬で崩れ、現実の頂点には浦辺の存在が君臨しました。そこにいた誰もがこれから訪れるであろう、自分らの楽しい小学校生活に1匹の鬼が現れた、と思い知らされたのでした。そんな彼らを見て、浦辺は一言呟きました。

 「ネリチャギ。これはネリチャギ(かかと落とし)です。」

 "ネリチャギ"その当時の小学生にとっては全く持って新しい言語、新しい文化の襲来でした。海に浮かぶは小さな舟、0を1へと変化、または船橋の鼻たれた子どもたちの脳天に、青竹をぶっさしそれが脊髄を貫通するような恐怖、そして最終的には、夢にみた新世界への淡い初恋のような感覚へと導いたのです。"ときめき"
 その結果どういうことがおきたのか。翌週から船橋の公園や小学校のいたる所に、潰れた缶が散乱したのでした。その現象はPTA総会の議題に上がるまでの問題へとなりました。

 ちょっと悪いことではありますが、僕はこのことを今でも思い出します。そしてその先駆的な行為と存在感、または数多くの人に"ときめき"を与えた小学生の浦辺に嫉妬することがあります。ただ実際のところ浦辺は、中学生の兄が持っていた「ろくでなしブルース8巻~大阪修学旅行編」という漫画を、同世代のどの小学生よりも先に読み、仕入れた情報をアレンジしたというだけのことです。ですがそれでも僕はやはり嫉妬します。ただ嫉妬という感情が出た自分にはときめいたりもします。喜びに似たことかもしれません。

 それから15年経ち、2007年に僕はCOBRAという名で美術作家を始めました。2010年、東京ワンダーサイトのレジデンス事業でオーストラリアに送っていただき、アーティスト・ラン・スペースの存在を知りました。スタジオを備えつつ、展示会場を設け、作家自身が運営をするというスペースです。そのシステムはシンプルでありながら、僕にとってはたいへん刺激的かつ新しい事象の襲来でした。帰国後、おもしろい作家やキュレーター、批評家の方々に出会える場をつくろうと決めました。また、海外の作家ともその場を通じて交流し、展示とかも実現すればいいな~とも考えていました。そして2011年には実際にオーストラリアで感じた刺激をもとに、世田谷でXYZ collectiveというアーティスト・ラン・スペースをオープンさせることができました。これまでは、展覧会やONE DAYイベント、パーティー等を行ってきました。またスタジオを併設しアーティストやギャラリー、レコードレーベルに貸したりもしています。

 2012年11月18日、僕はアーティスト・ラン・スペース3カ国交流展覧会のためニュージーランド、ウェリントンにいます。まだまだ足りない部分はありますが、なんとなく海外で展示の企画、出品ができました。皆さんにお伝えしたいのは、もし海外で発表したいとかスペースをつくってみたいと思うなら、どうぞトライしてみてください。今回こういったコラムを書かせていただいたネットTAMで僕は助成金の申請を調べ、インターン募集もかけさせていただきました。日本でもこういった団体はたくさんあるので利用しない手はないと思います。僕としては特に誰かのためにやっているわけではありません。あくまでも作家として、自分のため、身を置く環境がおもしろくなればと思い行動しています。そうすれば、あまりに楽しそうにしている僕を誰かが見た時、僕が浦辺に思っている嫉妬と同じように嫉妬をしてくれたら良しとなる気がするからです。

 長々となりましたが、僕が本当に皆さんにお伝えしたいことをある有名な方のお言葉を付け加えさせて頂いて、最後のご挨拶とさせて頂きます。ありがとうございました。

 「では皆さん、XYZcollectiveへのおこしを心よりお待ちしております。さよなら、さよなら、さよなら。」

(2012年11月23日)

今後の予定

現在TCB artinc.(オーストラリア)、 Enjoy Public Art Gallery(ニュージーランド) 、XYZ Collective(日本)の3ヵ国のアーティスト・ラン・スペースによる交流展示のプロジェクトに企画、出品で参加中。


2月にXYZcollectiveグループ展「ブルーバレンタイン」に参加予定

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