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ハモンド美術館

― 東西文化の架け橋へ ―


 日本の大学で物理学、カリフォルニアの美術大学で彫刻、ニューヨークに移りSITEというユニークなアート・デザイン活動で知られている芸術家集団に参加し、その後建築デザイナーとして独立、そして大学で教鞭をと、アメリカに来て30年以上経ってようやく今までのいろいろな「点」が「線」となっていくような感覚をうっすらと感じるようになってきたのは、8年前にハモンド美術館に理事として参加し始めた頃からだろうか...。

 ハモンド美術館(正式名称:Hammond Museum & Japanese Stroll Garden)は、マンハッタンの北、車で約1時間半の郊外にあるニューヨーク州公認非営利文化教育団体で、1957年にナタリー・ハモンド女史によって私有地を東西文化交流、芸術振興そして環境・自然教育をミッションとして設立され、11,000坪の敷地には、3,600坪の日本回遊式庭園、ミュージアムビルディング、ハモンド女史の元邸宅(教育センター)などがあり、展覧会、文化イベント、教育プログラムなどを提供しています。

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ハモンド庭園

 参加のきっかけは、当時の理事から展覧会企画作りに参加しないかという誘いがあり、そのすばらしい施設を見て「大きな遊び場になりそうだ」という気楽な気持ちからでした。
 また、そのころは建築・インテリアの仕事に明け暮れた多忙な毎日で、顧客のすべてがアメリカ人ということもあってか、アメリカに住む日本人という特別な意識はあまりなかったのですが、日本庭園もあり東西文化交流を主旨としている団体なのに、私が初めてのアジア人の理事だと知り、急に自分のルーツとの縁を感じたということもあります。

 私はカリフォルニアで彫刻を学びましたが、アートの世界で純粋培養された人間ではないので、一枚の絵の値段で小さな貧困国の食料事情が解決できるような世界は摩訶不思議に感じます。
 立派な美術館という器の中に、難解な説明文がつけられ、あたかも崇高な物のように装われた展示の背後に、究極の付加価値を創り出すことができる人たちの影が、作品そのものより強く見えるように感じるのは私だけでしょうか。
 私にとってのアートとは、特別な器にわざわざ出かけて観賞しなくても、身近に存在しているいろいろな事象からも感じられることのように思われるのです。

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日本からの招待作家個展。前衛書家の岡本光平氏によるデモンストレーション。

 とは言え、展覧会企画をしなければならない立場として器を埋めなければならないのですが、幸いにもハモンドは、芸術振興が「文化交流」という傘の下に設立された団体なのでいろいろな解釈での企画ができます。  美術展ではトレンドに乗ったもの、有名な作家の展覧会、物議を醸し出すものなどをすればそれなりの集客成果は出るとは思いますが、それよりも見知らぬ観覧者同士が自然に会話が始まるような展覧会や、新進作家達へのサポートを中心にした企画をしていきたいと思っています。
 また、いろいろな切り口で文化を紹介する企画展も今後力を入れたいと思っていますが、西海岸と比べここ東海岸はまだまだアジア文化は浸透が浅いので、身近なものから興味を誘い、そしてそのバックグランドにある歴史や文化へ結びつける手法の企画を考えています。
 たとえば、高品質で世界中に知られている日本製品、それらを生み出している企業の経営哲学の中の日本文化を探る企業展覧会なども、やってみたいものです。

 ハモンド美術館の社会における貢献としては、「若い世代へ何が提供できるか」が一番重要だと感じています。私が危惧していることは、大国の奢りなのか、アメリカの小中高の学校教育では外へ目を向ける姿勢が今だあまり感じられないことです。
 大学でインテリアデザインを教えていますが、大学の方針は実利的方向性が強く感じられ、それゆえ私の授業では知識や技術重視ではなく、自分を見つめて創造性を高めることに重点を置いています。

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野外インスタレーション展。"Birds in the Park" by Christy Hengst
第二次イラク戦争の以降、陶製の鳥にシルクスクリーンでメディア報道をプリントし、鳥たちを連れて多くの国々の公共空間で短期インスタレーションをおこなっているアーティスト。渡り鳥たちが、平和へのメッセージをハモンド美術館にも運んできました。

Christy Hengst:www.christyhengst.com
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野外インスタレーション展。"Untitled" by Eda
日本、韓国、イタリア、米国人アーティストたちが、庭園内でインスパイアーされた場所を選び作品を創り、室内ギャラリーでは彼らのプロポーサルと制作過程を展示して、室内外を結びつけた展覧会。写真は、Eda(日本)の陶製の破片状のものを使ったインスタレーション。周りの環境に完全に溶け込んでアート作品とは気がつかれず、「奇妙なキノコのようなものが庭に繁殖しているけど、何?」という問い合わせが多数あった作品。

Eda: www.edaeda.com

「創造性を高め、視線を外に向ける。」
 これは今までもいわれてきたことですが、テクノロジーの発達により多くの情報を得ることができても、創造力の有無が情報の有効利用に大きく影響してきます。ハモンドでの教育プログラム企画と大学での講義を通し、それを投げかけることが私にとってとても大切な活動となっています。

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イベント。韓国茶のデモンストレーション。3年前から茶の湯シリーズのイベントを始めました。第1回は「茶の湯の心」をテーマに、流儀の違いを超え、表千家、裏千家、武者小路千家で茶の湯を学んでいる人たちが参加され、和気あいあいとしたイベントでした。そして、第3回は「アジアの茶文化」と題して、中国、韓国、日本の茶のマスターたちによるイベントで、中国から日本への茶文化の流れを知るイベントでした。一般参加者は各国の茶の歴史、特徴などを学び、またそれぞれの茶の試飲を楽しみ、最後の日本の茶の湯のデモンストレーションでは、中国、韓国のマスターが客人として参加し、茶を通して交流するすばらしいイベントでした。
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イベント。野焼き。古代の陶器作成の再現体験イベントです。素焼きをせずに焼くので、結果は最後までわからないということで、はじめは「物質主義が強いアメリカ人は、参加費を払って作品が壊れたら満足しない」という反対意見が多数ありましたが、それを無理矢理押して始めたイベントです。今では恒例イベントとなり、体験を通して驚きや感動を楽しみにしている参加者が増えています。
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アートワークショップ。
庭園で自然の材料を探して作るワークショップです。講師は、ニューヨークの自然歴史博物館やイタリアの美術館などで、アート教育者たちを対象にワークショップを行っている著名なアーティスト・教育者のFlora Viale女史。彼女のマジックで、参加者たちの創造性がみるみる開花していくのを見るのはとてもエキサイティングです。
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特別イベント。養子家族のイベント。
ニューヨーク近郊に住んでいる中国の子どもたちを養子にしている家族のためのイベントです。子どもたちのルーツを教えたい、自分たちもその文化を学びたいという親たちの要望から始まったイベントで、伝統芸能やいろいろなワークショップを家族で楽しんでいます。彼らがすばらしい文化交流大使となってくれるでしょう。

 文化交流とは、「人」と「人」との小さな交流から始まり、徐々に相互理解に発展していくものだと思います。私はハモンド美術館が、そんな交流を提供できる場所としてありたいと考えます。現状としては、米国政府、州政府、また個人からの資金援助の大幅な減少の中、ハモンドの運営にかなりの危機感を感じていて、私の理想な姿のハモンド美術館を創るのは、時間との戦いのような気がしています。厳しい経済状況の中、「生存と理想」、とても難しいところです。

 振り返ってみると、いろいろなことが関わり合いを持って私の周りに現れ、何かが私の居場所を決め、それに従ってただ一生懸命やっているようにも感じます。
 生を受け、限られた時間を与えられた理由をこれから探っていきたいと思っています。

(2011年1月22日)

今後の予定

現在、大学からの要望でインテリアデザイン学科設立のためのカリキュラム作りをおこなっています。総合大学のため、いろいろな専攻の学生が受講するので、「人生の夢」をビジュアル化する方法として、インテリアデザインを道具として使うというアプローチで二つのコースを4年前から始めました。知識、マニュアルなど一切与えず、すべてを自分自身で決定しておこなうという少々荒っぽいやり方で、初めは皆戸惑っていますが、まったくの未経験の状態から彼らのすばらしい創造性を見せられ、人間の可能性は無限だと驚かされます。
20代初期では、自分の経験からしてもはっきりとした夢を持つというのはとても難しいことです。しかし何かの方向性が見えたと感じた時に、ビジュアル化の方法を知っていれば助けになるはずです。最近ではこの講義の人気も高まり、中にはインテリアデザインをキャリアとしてめざしたい学生も増えてきたので、知識や技術面のコースの他に、キャリアを通して人間的な成長ができるようなクラスも付け加えようとしています。

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

手塚さんは、ニューヨーク大学卒業後、コロンビア大学で美術史博士号を取得され、現在はニューヨーク・マンハッタンにある、アジア・ソサエティーという55年の歴史と、国内外に多くのオフィスを持ち、ハイグレードな展覧会やプログラムを行っている文化・芸術団体で、キュレーターとして活躍されている方です。

去年の12月に彼女がキュレーションした奈良美智個展は、ニューヨークメディアにも大きく取り上げられ大成功を修め、感性豊かなキュレーターとして大いに注目されています。

ニューヨークの若い日本人世代の人たちが、第一線で活躍されているのは本当にうれしいことです。手塚さん、これからのさらなる活躍、楽しみにしています!
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