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平成の志士たち



 今年最初の旅は函館で1週間ほど滞在し、続いて会津若松へ移動し、京都に戻る。もちろん温泉旅行ではなくてすべてダンスの仕事です。この3か所の地名を聞いただけで好きな人はピンと来るでしょう。そうです幕末、戊辰戦争、新撰組・・・・・。高校を卒業して以来、NHK大河ドラマも観ず、日本の歴史というものにまったく興味がない人間だったのに、なぜか急ににわか幕末ファンになっている。仕事の合間に函館では五稜郭を歩き、会津若松では飯盛山に登り、京都に帰れば京都幕末マップ(こんなのがあるのです、今の地図の上にセロファンであの頃はここに何があったかを重ねて見られるというものです)を片手に、あーこの辺が、あの事件があったところかと。もしかすると(たぶん)ただおっさんになったということなのかもしれません。しかしそれらすべてが、たかだか150年ぐらい前の出来事だということが、不思議でならないのです。だって150年といったら、今の私の年齢のたかだか3倍ちょっと前の出来事です。五稜郭タワーの展示を読むと、黒船が来ると言うので、まち中にお触れが出て、海に面した家は海岸側の窓から何から密閉して海を見てはならぬ、万が一異人に出会ってもすぐに逃げるように、ほとんどエイリアンが地球上陸をするような、歴史始まって以来の危機的状況のような感じです。今そんなこと言ってたら誰もが笑っちゃいますよね。

 なんでそんなに興味を持ったかというと、時間の尺度をどう考えたらよいのかなーとここ数年思っていて、こういう仕事 - 文化とか芸術とかアートマネジメントとか - を長年やっていると、必死にやっているのだけど、本当に意味があるのか、意義があるのかとふとした時に思ってしまうわけで、いくらでもその意味や意義を心の底からの確信として語ることはできるのだけど、ふと思う時があるのですね。昔のように芸術に意味なんてないんだーと、アーティストではないから、言えないわけで。そして日本でこのようなことをすると、単年度予算のため、4月からの活動は助成金の結果が出るその年の3月にならないとはっきりしないわけで、ずーっと目の前のことに追われ追われていると、なんか遠くを見たくなるのです。それが2年先なのか、5年先なのか、50年先なのか、100年先なのか。

 新しい文化や芸術が社会に浸透するというのは、つくづく樹や植物を育てることに似ているなと思う。土を耕し、種を撒き、水をやり、肥料をやり、無駄な雑草を抜いてやる。天気にも左右されるし、ようやく実を結んでもすぐに獣が食べてしまうかもしれない。花を咲かせるのかもしれない。もしかするとその土地の土に合わないのかもしれない。いや合わないのではなくて、育て方が悪いのかもしれない。大事にしすぎて水をやりすぎたら枯れてしまうのかもしれない。もしかするとしばらくほっとくほうがよいのかもしれない。

 JCDN主催の「踊りに行くぜ!!」や国内外のアーティスト・カンパニーのワークショップ・公演のコーディネート、そして昨年から始まった地域創造のダン活(公共ホール現代ダンス活性化事業)のコーディネーターなどで、これまでまったくコンテンポラリーダンスが行われたことのない土地に、コンテンポラリーダンスを運んでいく仕事をして、早いものでJCDN設立の準備期間を含め9年間が過ぎた。年々旅(出張)が増え、昨年は海外6都市、国内30数都市行っていて、同じ都市に数回行くことが多いので平均したら月のうち5分の4はホテル住まいであった。朝にホテルで目覚めると自分が今どこにいるのだろうと思うことが時々ある。2000年に4都市で始まった「踊りに行くぜ!!」は、昨年のvol.7は、参加アーティスト40組で21都市にまで広がっている。ほとんどの都市が継続して開催しているので、まさに地元の主催者と一緒に、土を耕し、種を撒き、早く地元のアーティストが育ってこないかなー、もっとお客さんが来るためにどうしたらよいんだろー、いやお客さんが少ないのは土の耕し方が足りないのでは、ここにこんな肥料を開発しようとか、いろいろ試行錯誤の連続なわけで。うまくいくこともあれば、あーもうだめだと思い、いやいやまだまだやることがあるよ、ということの繰り返しである。

 発想的には、人間が健康に生きていくためには緑が必要で、開発しすぎて樹木がなくなっている日本という土地に植林しているような感じだろうか。今日も会津若松の来年統廃合される小学校でダンスのワークショップを行ったのだが、自然の豊かな地域だから子どもたちはさぞかし外で遊んだり、ダンスのワークショップのような遊びもやっているのだろうと思ったら、校長先生がおっしゃるには、「いろんな悲惨な事件の後、子どもたちは一切寄り道をせず家に帰り、遊ぶとしたらテレビゲームしかしない」とのこと。「身体を使って自由に遊んで、そこから学校以外のことを学んでいた自分の子供時代を考えると、将来この子どもたちがどんな大人になっていくのか、怖い気がする。だからこのようなダンスのワークショップが絶対的に必要だと思う」と語ってくれた。

 イギリスでは、「ナショナル・ダンス・エージェンシー」という国の組織が全土にわたって9つある。コミュニティダンスと呼ばれる地域に根ざしたダンスのワークショップや活動が、1年間に75,000件にものぼり、毎週およそ480万人の人たちがさまざまな形でダンスに関わっているとのこと。なんでそんなにダンスに国が力を入れているかを、ナショナル・ダンス・エージェンシーのロンドン支局である「The Place」のクリスに聞いたところ、「イギリスは19世紀まではあらゆる面で世界の中心だった。しかし20世紀後半に産業が他の国々追い越され、イギリスの根幹だった産業力が崩壊していくにつれコミュニティが壊れていった。どんどんだめになる中で国にとって最も基盤となるものは、国民ひとりひとりの創造力だということに気がついた」と話してくれて、「その創造力を育てるものが芸術であり、特にダンスは、創造力を育てるとともにコミュニケーション力を高め、近年では教育問題を始め、社会のさまざまな問題に対してダンスが有効であることが実証され、ダンスの活動の場がますます広がっている」と。すばらしい!!

 創造力っていうとなんかたいそうなものに感じるけど、別に芸術作品を創るとかいうことじゃなくても、何か自分で考えて創ることができるんだよ、ということを体験しているのと体験していないのでは、人生においてまったく違うことになってくるんじゃないかと思う。誰かが考えたこと、過去の事例に捉われてそれしか方法がないと思うのと、何かおかしいことや不便だったり困ったことがあったときに、自分で工夫したり新たに生み出したりすることができるのでは、あらゆる局面において変わってくるのでは。

 最近よく言われているコミュニケーション力でも、世の中が便利になってパソコンや携帯でほとんどのことが済んでしまい、子どももテレビ画面のなかのバーチャルな世界にどっぷりと入り込んでいるけれど、結局現実は"生身の人間"との共同作業だったり、生活だったり、生きている他人と一緒にやっていくしかないわけで。ただそこら辺の力っていうのは、生まれたときから身についているものではなく、体験しながら育てていくものであって、その力を育てていないとすぐにキレたり、平気で人を傷つけてその痛みが理解できなかったり、バーチャルと現実の違いがわからなかったりするんだろうなって思う。

 それらの力を育てられるのが芸術なんだと思う。だってその道のプロなんだから。
 ここ数年日本でもアートNPOや各地の文化財団、公共ホールなどが主催して、学校や病院、福祉施設、老人ホームなどあらゆる場所でのダンスのワークショップが増え続けている。しかし難しいことは、新しくなにかを始めるのも大変だけど、それを継続するのはそれ以上に力が要るということ。新しく始まったダンスの事業を継続するためのシステム=仕組みをいかに創っていけるのかがキーポイントだと思っている。たぶん他の分野、教育とか福祉とか健康とか、ダンスの持っている可能性ごとの分野とのネットワークを確立していくことが継続する秘訣なんじゃないかなー。

 100年後には、日本各地にコンテンポラリーダンスのアーティストがいて、小学校や老人ホームや福祉施設やいろんなところでダンスの活動が普通に行われ、普通にダンスの公演を楽しみに観にいく時代が来て、その頃の人は、エー、そんな芸術やダンスが身近に無い時代があったなんて信じられなーい、そんなのおっかしいよー、という時代になる(のかもしれない)。

 この文章も、ダン活のために会津若松の滞在中に書いているのだけど、幕末に興味を持ったのは、おっさんになったからじゃなくて、今の文化関係者の熱い想いや動きや広がりが、幕末の志士たちとダブって見えたのかもしれない。

 書き始めたらえらく長い文章になってしまった。すいません。
 今年は、地域でのダンス活動の先輩格であるイギリスで、いかにダンスが社会の中でいかされているかを調査して本として出版したいなーと考えている。まだ何も決まっていないので、どなたか出版社を紹介してください。できたら新書版で出せたらなと考えています。

 JCDNの活動も今年は次のステップに進もうと準備しています。乞うご期待!!
 それでは日本のどこかでお会いできるのを楽しみにしています。

PS:すっごくしつこいけど、最近封切りになった「長州ファイブ」という映画でも、次の国を造るために長州の若者たちがイギリスに行く映画なんだって、観にいかなきゃ!

(2007年2月25日)


NPO法人JCDN http://www.jcdn.org/

1998年より3年間セゾン文化財団の助成を受け、ダンスの調査のために全国行脚を行い、全国のコンテンポラリーダンス関係者が集まるミーティングを東京で行うなどの設立に向けて準備を行う。2001年にNPO法人として正式に設立し、現在に至る。2006年国際交流基金地球市民賞を受賞。

【 主催事業 】

「踊りに行くぜ!!」


2000年にアサヒビール株式会社、トヨタ自動車株式会社のサポートを受け、札幌・東京・横浜・大阪の4都市でスタートする。vol.3より文化庁芸術団体人材育成支援事業の支援を受け、継続して開催している。2006年度のvol.7は札幌から沖縄まで全国21都市にて開催し、選考会にて選出されたアーティスト40組が参加するまで成長を続けている。

・「クリティカルレスポンスプロセスを使って...ダンス批評の試み」
ダンス作品が育っていくためのダンス批評である、アメリカのリズ・ラーマンが開発したダンス批評のシステム「クリティカル・レスポンス・プロセス」を「踊りに行くぜ!!」の選考会と並行して行っている。

・「JCDNダンスファイル」
コンテンポラリーダンスに関わるアーティスト、オーガナイザー、制作者、批評家などを紹介するファイル。日本語版と英語版を製作し、本形式とDVD形式を隔年で製作している。
「JCDNダンスファイル」表紙 (PDF / 138KB)

・「DANCE X MUSIC」


ダンスと音楽の新しい出会いを創るプロジェクト。2005年よりスタート。同時に、コンテンポラリーダンスのための音楽家紹介サイトも新たに開設。

「JCDNダンスリザーブ−オンラインチケット予約システム」
JCDNの会員サービスとして、インターネットでダンス公演を予約できるシステムを開発。利用者は1万人以上。

「JCDNダンスアパートメント」
ダンスの動画を配信。ダンスの新しいメディアとして機能することをめざして開発中。

「JCDNオンラインショップ」
ダンスのDVDやチケットなどをオンラインで購入できるショップ。発展途上中。

・「JCDNダンスDVDシリーズ」


"部屋で映画を観るように、ダンスを観よう!!"を合言葉に、本屋さんで"ダンスDVDシリーズ"のコーナーができることをめざして開始する。現在vol.2まで発売。

・「国際振付家交換レジデンシープロジェクト」
2001年より日米振付家交換レジデンシープロジェクトを、アメリカ3都市、日本2都市で隔年で開催するなど、積極的に海外とのレジデンシープログラムを行っている。

・「国際ダンスプロジェクト」
昨年はオーストラリア-日本ダンスエクスチェンジを開催。さまざまな国とのプロジェクトを行っている。
ポスター 表 (PDF / 3.67MB)

【 コーディネート事業:2006年度 】

・福岡市芸術文化財団主催「ダンス波」

京都芸術センター「京都ダンスプロダクション」

その他、アメリカ・リズラーマンダンスエクスチェンジの山口・福岡・京都での活動や、日本各地でのダンスワークショップ・公演のコーディネートなどを行っている。

今後の予定

3月2日・3日
「踊りに行くぜ!!SPECIAL IN TOKYO」@アサヒ・アートスクエア

3月5〜8日
東京芸術見本市2007 ブース出展

3月9日
東京ティアラこうとう ティアラ140+#17「東京シティ・バレエ団 meets コンテンポラリーダンス」〔ダンス巡行型公演〕

3月11日
リズ・ラーマン ダンスエクスチェンジ 京都公演@京都芸術センター

3月12〜16日
地域創造ダンス活性化事業@平塚
アーティスト:上村なおか+笠井瑞丈

3月24・25日
「京都ダンスプロダクション」最終公演

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

実は本当にコンカリーニョが再生されるなんて、信じていなかった。ごめん。だってお金がないんだから。

だから去年、新生コンカリーニョを見た時にはほんとにびっくりしたよ。失礼。こんなことが今の世にできるなんてすごいよね。まだまだいろいろ大変だろうけど、現状と思いのたけを書いてよ。
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