芸術環境KAIZENファイル

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「芸術環境KAIZENファイル」では、多くのアートの現場が抱える悩みや課題を解決に導くような仕組みや取り組みを取材し、紹介します。
事例からヒントを得て、全国各地のアートマネジメント環境が整備されていくことを願っています。[芸術環境KAIZENファイルとは

 

 子どもを預けてゆっくりアートやコンサートを楽しむことができる託児サービスは、いまやさまざまな催しの場で見かけるようになりました。子育て中も変わらずにアートを楽しめる機会を提供し、その両立を下支えしています。催しの主催者側にとっても、お客様への付加価値提供として、重要な要素になりました。しかしながら、託児にともなう安全管理の意識はまだ低く、基準となる法律も未整備という現状もあります。
 File2では、25年前に母親の目線に立った独自の「イベント託児」®を主婦3人で立ち上げ、全国各地の文化施設で託児サービスを手がける業界の草分け的存在、イベント託児®「マザーズ」代表の二宮可子さんに、託児サービスの仕組みや現状の課題、今後の展望などをインタビュー。さらに託児サービスの導入事例として国立新美術館を取材し、託児サービスがアートの現場にどのようなKAIZENをもたらしているのかを探りました。

母親3人が始めた託児サービス「マザーズ」

二宮さんが託児サービスを始めたきっかけについてお聞かせください。

二宮:1980年代、私が出産を機に仕事をやめて専業主婦になった頃、母親が安心して子どもを預けて芸術を楽しむことができるサービスは、世の中にはありませんでした。託児サービスがあるのは区主催の勉強会や教習所くらい。でも大人数の子どもを少ないスタッフがみていたり、児童の名前のチェックもしないなど、ずさんなものでした。有料でも安心して使える託児施設や派遣のベビーシッターシステムはほとんど無く、一時預かりのベビーホテルでの死亡事故や問題も多く報道されていたので、とても子どもを預ける気持ちにはなれませんでした。
 芸術の世界にも託児サービスはほとんどありませんでした。宇野重吉さんの発案で、劇団員が託児を行っていた劇団民芸や、NHK交響楽団などの例はすでにありましたが、全体で考えるとほとんどなかったといえると思います。私も以前はしょっちゅうコンサートやお芝居に出かけていたのに、子育てが始まってからはどこにも行けなくなりました。
 託児サービスが存在しなかった理由のひとつに、当時の社会風潮もあると思います。「三食昼寝付き」の専業主婦は子育てに専念するのが当たり前、母親が子どもを預けて楽しむなどもってのほか、という空気がありました。また、夫が育児を手伝うこともまだ一般的ではない時代だったんです。

80年代でもまだそんな感じだったのですね。

二宮:それでも私は家庭以外にも生きがいがほしいと思うようになりました。お金の問題ではなく、社会参加がしたかったのです。それでなにかできることはないかと考えて、私のようにコンサートや観劇中に子どもを預かってもらいたい人はたくさんいるはずだと思いました。そこで同じ思いを持つ子育て中の友人に相談して、母親の目線で安心して預けられる託児サービスのアイディアを出し合いました。私たちが好きな芸術分野に対象を限って、1988年、私の自宅を拠点に、母親3人による「マザーズ」がスタートしました。

初めての託児サービスに、周囲の反応はいかがでしたか?

二宮:最初はほとんどが門前払いでした。母親が安心して預けられるシステムをつくれば主催者側のPRにもつながると考えていたのですが、当時は託児ではなく「子守」という概念が強くあったので、子守にお金がかかることが理解できない主催者さんばかりでした。一番多かった反応は「主婦のわがままなお遊びには付き合えない」というものでした。「スポンサーをつけて札束積んで出直してこい」とか「公演に来たかったら子どもなど生むな」とまで言われたこともあります。
 そんな中、日本フィルハーモニーだけが「大歓迎です、ぜひやってください」といってくださいました。ちょうど日本フィルさんも、20代後半から30代の会員が子育て中も公演に足を運んでもらいたいと考えていたところだったのです。そうしてサントリーホールの公演の楽屋を託児室にして、初めてのイベント託児が実現しました。

サービスの内容はどのように決めていったのですか?

二宮:始めるにあたっては、とにかくけがや事故が絶対にあってはならないということが一番でした。お手本となる託児システムはまったくありませんでしたから、危機管理のノウハウは、まずは母親の立場で「うちの子だったらこうしてほしい」というところを基準に積み上げて行きました。
 たとえば、「わが子が0歳児なら、何かあったら両手で抱いて逃げてほしい」「わが子が1歳なら1人の大人が2人まで抱けるだろう」「2歳以上になっても大人が一人で完全に対応できるのは、子ども3人が限界だろう」というように、災害時の避難を想定して保育者と子どもの人数を決めていきました。

その後どのようにイベント託児を広げていったのですか?

二宮:日本フィルでのスタートをきっかけに、それまで子どものけがや事故が怖くて託児の導入を躊躇していた公的なホールでも、徐々に導入を検討してくださるようになりました。東京都交響楽団(1989年)、夢の遊民社(1990年)、リリパットアーミー(1990年)、青山劇場(1993年)キャラメルボックス(1994年)など、実績を積んでいくうちに、マザーズの託児は安心で安全という評判を聞きつけて、仕事はどんどん増えていきました。
 時代の意識の変化もありました。90年代に入ってバブルがはじけた後、公演チケットの売り上げが落ち込みました。それで新規顧客層として、これまでチケットを買いたくても買えなかった子育て中の人たちを開拓しようと、託児サービスを始める主催者さんが増えたのです。さらに社会全体の「子育て支援」「少子化対策」のムードも後押しになったと思います。
 そうして25年続けてきて、2010年まで月平均100公演のイベントで平均5名程度の子どもたちを預かってきました。2011年は3月11日の東日本大震災でホールや施設自体が被災したところも多く、またイベントが中止になったりして本数は半分にまで激減しましたが。

安心と安全がキーワード。マザーズの託児システム

マザーズの託児サービスのシステムを教えてください。

二宮:託児サービスは主催者側のお客様サービスの一環と捉えていただき、マザーズはその託児請負業という位置づけです。運営費用は主催者側が負担し、利用者にはその一部を負担していただくかたちで運営しています。
 内容は、少人数託児を行なっています。0才児と障がい児はマンツーマン。1歳児は子ども2人にシッターが1人、2歳児以上は3人に1人がつきます。シッターのほかに現場責任者であるディレクターとアシスタントディレクター、必ず2人セットで入れて現場を統括しています。施設ごとに建物と周辺の避難経路を記したマニュアルを必ず持参し、スタッフは全員が救急救命士の訓練を受けています。
 申し込みは事前予約制です。予約者には事前に当日のご案内や注意事項を記した書類をお送りします。予約制にすることで、食物アレルギーや障がいなどケアが必要なお子さんの情報を事前に知ることができますし、利用者にも全体のシステムを理解していただけるのでお互いの信頼関係を高めることができます。
 当日は、受付でまず同伴者とお子さんの写真を撮ります。実は誘拐対策なのですが、お帰りの際に差し上げる記念にもなります。また、預かり中の子どもの様子を記入した「サンクスカード」もお渡ししています。

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0歳児にはシッター1人が片時も目を離さないように付きそう。
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サンクスカードには、ミルクの回数や遊びの内容など預かり中の様子が書かれている。

託児中、子どもたちはどのように過ごしているのですか?

二宮:3歳児以上は紙コップなどを利用したクラフトづくりなど、スキンシップがある伝承遊びを取り入れるようにして、それ以外は私たちが見守るなかで自由に遊んでもらいます。帰る時には、それぞれ楽しい時間を過ごした保護者と子どもがみんな笑顔で帰っていただくことが私たちの使命と思っています。ありがたいことに、一度ご利用された方はほとんどがリピーターになってくれています。

シッターはどのような方がなさっていますか?

二宮:スタッフは基本的に「登録スタッフからの紹介者」に限っています。その理由は、顔が見える信頼関係を大切にしていることと、待遇ではなく子どもが好きだからこの仕事に就きたいという人に来てほしいからです。現在、全国主要都市に200人の登録スタッフがいますが、子育てが終了した40代以上の主婦がほとんどです。一般の保育士さんと比較すると年齢層は高めですが、みんな気は若くて(笑)意識の高いスタッフが揃っています。

スタッフの教育はどうされているのですか?

二宮:まずセミナーを開いて詳しい仕事の説明をします。同時に、仕事に臨む心構えを徹底的に話します。開演時間の決まっている公演は絶対に遅刻できません。普段は主婦でのんびりしていても、一度仕事を引き受けたらそこからプロになってくださいといいます。服装や靴、髪型などにも規定がありますが、そうした規定の理由もひとつずつ説明して、徐々にこの仕事への意識を高めていってもらいます。
 そのあとは現場の回数を踏んで、セミナーで聞いたことを実地で経験していきます。期間の長さではなく場数をどれだけ踏んだかが大切です。毎月1回の現場責任者会議でも、なにか決定するときは、現場の意見が最重要視されています。
 定年は70歳です。この仕事のよいところは、専業主婦の子育て経験がキャリアになるところです。赤ちゃんの抱き方とか体調の見極め方なんて、マニュアルにはできませんから。子育ての経験が仕事にいかせて、それぞれの生活のペースに合わせて長く続けられる仕事だと思いますね。

託児サービスを取り巻く現状と課題

二宮さんから見た、託児サービスの現状における問題とはどのようなものでしょうか。

二宮:最近は託児サービスを行う業者も増えてきましたが、私が懸念しているのは、託児の指針や危機管理への意識があいまいなまま、さまざまな託児サービスが運営されていて、さらにその基準となる法律もないことです。
 たとえば、託児サービスで人数割合を出しているところはほとんどありません。ましてやマザーズのように子どもの年齢や個人差に合わせた少数託児を行なっているところは皆無に等しい。ボランティアが20人の子どもをたった2人の大人でみていたり、どの子も同じように引き受けていたり、個人情報の取り扱いもいいかげんな例をよく聞きます。マザーズでやっていることは、安心と安全を考えればすべて当たり前のことだと思っていたのですが、当たり前ではなかった。人の命を預かる責任意識が、主催者側も業者側も薄いのです。
 さらに、託児サービスを導入するに当たって、これまでの随意契約から金額入札型に切り替える公共施設やホールが続出しています。そうすると託児の内容よりも金額が優先され、経費削減のために子どもの安全が損なわれるようなことが起きかねません。「指定管理者制度」が導入されて以来、この傾向は強くなりましたが、この現状はとても危険だと思っています。
 実際に「無認可託児所」などでは死亡事故が起きています。スタッフが赤ちゃんから眼を離している間に起きた事故で、また複数の子どもを1人のスタッフが見ている状況での事故例もあります。しかし現在の日本の法律で、「託児」は管理や規制の厳しい「保育園」とは違って、一切の規定はありません。不慮の事故があっても取り締まる法律がないので、こうした施設も業務停止などにはならずに営業を続けています。無認可託児所はある程度調査が入るようになりましたが、イベント託児の場合はまったくの野放し状態です。届出をする役所の窓口もありません。

ショッキングな現実ですね。人の命を預かる仕事なのに。

二宮:しかし実際に預けた親の立場からそうした不満を聞くことはあまりありません。おそらく預かってもらうという後ろめたさがあるので声を上げにくいのだろうと思います。でもお母さま方にも、託児はどこも一緒ではなくて、何かあった場合の対処のしかたや子どもの対応にも関心を持っていただきたいと思います。
 そして主催者の方には、ぜひノウハウと危機管理の重要性にもっと認識を強く持っていただきたい。私も機会あるごとにお話しするようにしています。もちろん、よくわかっていらっしゃる担当者もたくさんいますが、日本中どこでもちゃんと危機管理をした託児が行われるようにならなければ、なにかあってからでは取り返しがつきませんから。マザーズは25年間前から現在まで、幸い一度も事故はありません。

マザーズ自体がイベント託児の現場の改善に励まれているのですね。

二宮:「安心と安全」がなによりスタンダードになってほしいと思います。「イベント託児」を商標登録したのもそうした理由からです。まったくノウハウのないボランティアや人材派遣会社が「イベント託児」という言葉を使って営業を始めたのをみて、言葉を生み出した責任を感じ、「イベント託児」とついた名称のサービスは「危機管理」を考えている「託児サービス」であり、最低限の危機管理や人数割りは行なっていると知ってもらうために、商標登録をしました。
 企業メセナ協議会に入会した時も、お誘いいただいた損保ジャパンの方が、「妥協しないでいい託児をやっていこうとするマザーズの業務自体がメセナでしょう」とおっしゃいました。経済的にはどんな仕事でも引き受けたいのですが、安全と安心だけは絶対に譲らないと決めています。

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おもちゃも子どもが遊びたくなるように工夫して配置している。

お母さんの笑顔をこどもたちへ!

託児サービスのメリットはどこにあると思いますか?

二宮:まず主催者側にとって安心で安全な託児サービスを導入することは、少子化が進む中での子育て支援策として、イメージアップにつながります。また子育て世代を新しい顧客に取り込むこともできます。
 そして子どもを預ける側のメリットですが、これは私自身の体験からまずお話します。
 子どもがまだ小さくて子育てのストレスがほんとうに溜まっていたある日、夫に無理やり頼んで一人で映画に行ったことがありました。上映時間が短いものなら何でもよかったくらい切羽詰まって行ったのですが、人生の黄昏を描いたようなストーリーの外国映画でした。それまではこのつらい時期が一生続くように思っていたけど、見ているうちに、自分は今、人生の中の子育てという貴重な時期にいるだけなのだと思えて涙がでてきて、それで子どもや周囲への気持ちがリセットすることができたのですね。ほんの数時間、子どもと離れて大人の時間を楽しむことで、新しい気持ちでまた子育てと楽しく向き合えるのだと思えた貴重な体験でした。
 「働く母親」への支援策は、25年前も現在もたくさん打ち出されています。しかし、専業主婦をしている母親のストレスについては無理解が続いていると思います。母親たちだけの狭い世界と、社会から取り残される心的ストレスはあまり話題になりません。専業主婦は一日中家にいて、子どもといるのが楽しい時間なんでしょうと周りに強制されると、だんだんと息苦しくつらくなってきてしまう。子どもの虐待が起こる理由も、そうしたところに原因があるのかなと思います。
 マザーズを始めた当初は同じ母親仲間からも批判されました。「自分が遊ぶお金があるくらいなら、子どものパンツを買うのがいい母親」といわれましたが、「母親が楽しく、子どもに優しくなれるほうがいい母親だと思う」と反論したりしました。自分が楽しむために子どもを預けることに抵抗のある人もいるでしょうし、なによりお母さん自身が後ろめたく感じると思います。でも、子どもを預けて絵を見ることによって自分を取り戻すことができたら、それはすごくいい時間になるのです。そのあと子どもが泣いていたら後ろめたくて後悔しますが、マザーズはぜったいに楽しませます。泣いて預かった子どもは笑顔で返しますから(笑)
 マザーズのキャッチコピーは「お母さんの笑顔をこどもたちへ!」です。もちろん働いているお母さんもたまには仕事からも子育てからも解放されるべきです。母親だって一人の大人の女性として文化に触れるべきだと思います。チケットを買っておしゃれして、短時間でも子どものことを忘れる時間が絶対に必要です。

今後、イベント託児がアートの分野でどんなふうに発展していってほしいですか?

二宮:託児サービスはまだ主に商業公演が中心で、美術館はまだまだ少ないのです。地方の美術館ではいくつかありますが、今後もっと美術館での託児サービスが増えるといいと思います。 それと思うのですが、非日常を楽しむ美術館のような場所で子どもが大泣きしているのは、私はちょっと違うと思うのですね。日本は子ども中心の社会だから、大人の場所でも子どもには寛容ですが、子どもの騒ぐパワーの方がアートにまさってしまうので、お金を払って見にきた他の鑑賞者の行為を台無しにしてしまいます。なにより混雑時にベビーカーを押したり薄暗い場所に入ったりするのは子どもにもストレスにもなります。
 クラシックコンサートが未就学児は入場禁止としているように、アートの分野でも、子どもが入れる場所と入れない場所を区別してもいいのではないかと思います。そのかわり、平日の午前中などに思い切り親子で楽しめる時間を設けたり、託児サービスなどを利用したりして、うまく両立させて棲みわけしていくことで、誰にも芸術鑑賞の行為が保障されている社会になればいいと思っています。

どうもありがとうございました!

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マザーズ代表の二宮可子さん

国立新美術館で託児サービスを導入されたのはいつですか? その理由は?

水野:国立新美術館は2007年1月に開館しましたが、託児サービスはその翌年度、2008年1月から試行的に始まりました。子育てでなかなか家をあけられず美術鑑賞もできないという子育て家庭の声を聞き、そうした方々にも美術館へきていただく環境づくりの取り組みとして始めました。美術館利用者サービスの一環として庶務課が管轄し、外部委託先のマザーズと連携して運営しています。
 お子さんを抱えて美術館の展示室へ入られる方もいらっしゃいますが、途中でぐずってしまうとやはりそちらが気になって絵がゆっくりみられないと思います。託児サービスを利用することで、ゆっくり美術鑑賞を楽しんでいただき、さらに館内のレストランやカフェ、ショップなどもご利用いただいて、限られた時間をゆっくりくつろいでいただければと思っています。こうした取り組みをこれまで5年近くやってきて、利用者からも非常に好評をいただいています。

国立新美術館の託児サービスの内容について教えてください。

水野:当館の託児サービスは、導入時から徐々に回数を増やして、2009年からは月2回、年間24回行っています。回数が増えるにともない利用者も伸びてきています。利用者のうち半数以上が初めての方ですし、また都内だけでなく地方からいらっしゃる方もいて、こうしたサービスへのニーズが広まっていると実感します。
 現在は、毎月第2木曜・第3日曜を託児の日として、予約制でご利用いただいています。利用時間は12:30~15:00。料金は0~1歳児一人につき2000円、2歳から12歳は1000円と比較的低料金で行っています。館のホームページや館内チラシに告知を出し、マザーズさんの方でもお知らせを送っています。
 運営資金は、始めは館の費用でしたが、現在は三菱商事さんよりご支援をいただいています。独立行政法人という半民間の体制になっていることもあって、お客様の目線で考えた美術館運営を心がけて、金曜日の夜間開館やロビーコンサートなどさまざまな試みを取り入れていますが、託児サービスもそうしたサービスのひとつとして、館のイメージアップにつながればと思っています。

託児サービスを提供するメリットをお聞かせください。今後の課題は?

水野:いままで美術館に行くのをあきらめていたお客様が託児サービスを利用したおかげでゆっくり見ることができました、という声を聞くことがうれしいですね。お預かりできる人数は限られているので、これで来場者を増やそうというよりは、幅広いお客様に質のよい鑑賞の時間を提供するためにあると考えています。
 今後の課題としては、利用者からの要望も高い、託児サービスの回数を増やしたいと思っています。ただスタッフの増員など経費の面でさまざまな課題があり、いただいた協賛金の中で行おうとすると大変苦しい状況です。そのためにも、託児サービスの有効性をもっと外部の方にもご理解いただきご支援いただけるようにファンドレイジングにも力をいれていきます。
 これからも、より幅広い層の人が美術館へ足を運び、実物のアートに出会う感動を味わっていただけるよう、利用者が安心できる手厚い託児サービスを継続していきたいと考えています。

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国立新美術館の水野元洋さん
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国立新美術館ウェブサイトの「託児サービスのご案内」ページ

 子どもの手も離れたので子どもと触れる仕事を探していたところ、マザーズにいる友人に紹介されました。今では天職だと思っています。震災前は月12~13本シフトに入っていました。特に夏休みと冬休みの親子コンサートやクリスマスコンサートの時期は忙しいです。
 その時々のお子さんとの出会いなので、マニュアルがあってもどの都度臨機応変に対応しなければなりませんが、人見知りのお子さんにはあえて目を合わせないようにして遊ぶなど、対応のしかたは心得ています。大切にしていることは「安全」です。来ていただいたお客様が安心して元気に帰っていただくように心がけていますので、お母さま方もどうぞ安心してお預けになってイベントをお楽しみくださいとお伝えしたいですね。




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マザーズの清水恵子さん

1歳児のお母さん
 前回利用してすごく助かったのでまた利用しました。絵を見るのが好きで、でも一度赤ちゃんを連れて行ったら途中で泣かれちゃって慌てて外にでなくてはいけなかったので、今回は2カ月前から託児を申し込みました。おかげさまで今日はゆっくり鑑賞できました。また見たい展覧会があればぜひ利用したいです。美術館はあまり託児サービスがないのでもっと増えたらいいなと思います。

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 1987年、専業主婦の母親3人で設立。全国の芸術施設における音楽コンサート、演劇公演などにおいて、一時的に子どもを預かる「イベント託児」®サービスを開始。「お母さんの笑顔を子どもたちに!」をスローガンに、児童の年齢に合わせた少人数託児の導入など、子どもの安全を第一に考えた独自の託児システムをつくりあげ、芸術文化の分野における託児サービスの草分け的存在となる。
 主なクライアントは、国立新美術館、東京文化会館、浜離宮朝日ホール、トッパンホール、ザ・フェニックスホール、ミューザ川崎シンフォニーホール、日本フィルハーモニー交響楽団、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団など多数。専門的な訓練を受けた全国約200名のスタッフが運営にあたる。託児サービス全体の安全意識の向上のために「イベント託児」を商標登録し、主催者に向けた講習会や研修などにも力を入れている。企業メセナ協議会会員。

問合せ先

〒101-0051
東京都千代田区神田神保町1-34 三村ビル5F
TEL: 03-3294-1537
FAX: 03-3294-3032
URL:http://www.mothers-inc.co.jp/

参考リンク
国立新美術館 「託児サービスのご案内」

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マザーズウェブサイト

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 アート関連のチラシに託児サービス情報が掲載されていることに、いまや特段の驚きはありません。それほど託児サービスの存在は普及しているといえます。母親に限らず父親も含め、アートから遠のいてしまいそうな子育て世代の大人たちを側面サポートする縁の下の力持ち。この仕組みはいつ生まれて、どのように整えられてきたのか、先駆者にぜひうかがいたく、現場取材に行きました。
 目から鱗だったのは「仕組みができたら完了」というわけでなく、指定管理者制度や東日本大震災など、時事課題一つひとつに対応してシステム改善されてきたことでした。増加する食物アレルギーの子どもへの対応や、専用託児室がない施設では楽屋や会議室を利用することなど、表には出てきにくい苦労もあります。取材前は、託児サービスは「子育て奮闘中の親に対するアートサポート」「イベント主催者や文化施設にとっても付加価値」と、明るいところにばかり目が行っていましたが、法規制が無いことや、指定管理者制度導入による人件費削減で安心・安全の確保が危ういこと、文化施設やイベント主催者の託児に関する危機管理意識の欠如など、解決すべき重要な課題が多いこともわかりました。パイオニアとしての二宮さんの危機意識と問題提起は、ネットTAMでしっかり受け止めて発信していきたいと思います。
 取材に際し、マザーズが25年間にわたって現場責任者全員で毎月の会議を重ね、情報共有を徹底して築き上げたという危機管理マニュアルの一部を拝見させていただきました。「最大の危機管理は信頼関係」とのポリシーで利用者との対話を重視し、「安心・安全」を何よりも大事にする姿勢が凝縮されたものでした。なお、下記にご紹介するのは東日本大震災に際して発信された利用者(=催しの主催者・文化施設等)への報告です。危機管理をいかに重視しているかが見えてきます。

東日本大震災時 託児サービス状況ご報告

関係各位

 いつもお世話になっております。
この度の震災により公演業界全体が危機的状況の中で、お客様・出演者の安全に気を配りながら
公演活動を続けていらっしゃる皆様のおかげで、マザーズもイベント託児を続けることができる
事を深く感謝いたします。
 そして、マザーズの託児サービスを長年にわたり信頼くださりありがとうございます。原発事
故も余震もひとまずは一段落したと思われますので、改めて弊社より震災時の託児の状況報告を
させて頂きます。

  • 3月9日 宮城県多賀城、震度5「夢メッセミヤギ」託児中
    (津波警報発令、館内警備指示により避難なし、室内一時避難後託児続行)
  • 3月11日「大阪・フェニックスホール」15時開演
    (受付後地震発生、保護者とお子さまとともに避難待機、その後公演中止)
  • 3月11日「松戸・森のホール」19時開演
    (17時30分シッター現場到着、公演中止)
  • 3月11日「サントリーホール」日本フィル19時開演
    (公演決行、託児予約者当日キャンセル)
  • マザーズ社内ではインターネットとFAX回線がダウン、翌朝までに復旧作業終了
  • 震災翌日、各主催者ホームページと電話にて直近の託児付き公演の中止有無を確認。
    中止公演は託児予約のお客様には電話連絡、指定口座に託児料金を返金処理

以上報告

 今回は幸運にも、すべての主催者様・お客様にもご迷惑をお掛けすることなく、速やかに責任
を果たしたとスタッフ一同安堵しております。そして、今回無事に対処できたことに甘んじるこ
となく、更に危機管理項目を増やす必要があると考えました。
 同時に今までは公開していなかったマザーズの危機管理マニュアルをお知らせし、地震ばかりで
なく万が一の場合にはお子さまの安全確保にご理解とご協力を頂ければ幸いと存じます。
 別紙をご覧頂き、質問・ご意見などお聞かせ頂ければ更に改善したいと考えております。避難
訓練などの機会がありましたらぜひ参加させて頂きたいと考えております。
これからもご指導ご鞭撻の程お願い致します。

敬具

平成23年5月1日
株式会社マザーズ 代表取締役 二宮 可子

取材概要

  • 取材日:2011年11月10日
  • 取材地:国立新美術館
  • 取材先:株式会社マザーズ、国立新美術館
  • 取材者:ネットTAM運営事務局(トヨタ自動車株式会社 社会貢献推進部 山岡由佳・山本真由美、公益社団法人企業メセナ協議会 菊池敦子)、坂口千秋(ゴーライトリー)

ネットTAM アンケート

アンケートにご回答いただいた方の中から抽選で10名様にプレゼントを差し上げます。

2004年10月に開始した「ネットTAM」は、アートマネジメント総合情報サイトとして、
おかげさまでアートの現場を始め幅広い方々にご活用いただいております。

よりよいサイトづくりの貴重な手がかりとしたく、ぜひ多くのご意見・ご要望等をお寄せください。

*ご回答いただいた内容は統計に使用し個人の回答内容が特定される形では公表いたしません。また個人情報はネットTAM運営事務局で厳重に管理し、第三者に提供することはありません。

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