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リレーコラム

第64回
Happy Spiral with Art|Wonder Art Production/Hospital Art Lab代表/アートプロデューサー|高橋 雅子

 病院でアート活動をおこなうようになって、もうすぐ10年になります。
 ≪命≫を突きつけられる体験が重なり、生老病死すべてに関わる≪病院≫を考えるようになり、一歩踏み出したらすっかりはまってしまいました。今では北海道から九州まで全国50病院以上を訪れるまでになりました。最初は作業療法プログラムに加え、患者、医師、病院職員、アーティスト、企業、ボランティアと当所が協働でのアートリノベーションを病院ごとにおこなっていました。

 MAYA MAXXさんの提案で難病の子どもたちに色を届ける「ハッピーカラープロジェクト」も始まりました。私たちが外の空気とともに病院を訪れると、静止画面が動き出すように、にわかに院内が明るく活気を帯びてきます。そしてMAYAさんが大きな画面に絵を描き始めると子どもたちの顔がわあっと開いて目がキラキラし、点滴や管をたくさんぶら下げたまま飛び出してくるのです。抗癌剤で昨日まで動けなかった子とは思えません。たとえ明日亡くなる子でも、いまを楽しんでほしい。それが明日かずっと先かの差はありますが、私たち誰もが同様に死と背中合わせです。それまでの時間を一緒に笑って過ごしたい。それにはアートがとても有効だと思います。

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栗橋病院でのアートリノベーション

 その後、孤立した病院や患者さんをつなぎたいと考えるようになり、5年前から全国の病院をつなぐ「ハッピードールプロジェクト」も展開しています。これは、アート人形制作のワークショップ後、院内で展示し、次の病院へリレーする仕組みです。病院を移動するにしたがい作品の量も増えていき、病院と患者さんと作品がつながっていくのです。今年はNYの病院も加わることになりました。

ハッピードールプロジェクト活動の様子

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聖路加国際病院
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あいち小児保健医療総合センター
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金沢医科大学病院
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PL病院(大阪)

 私はずっとアートの現場で生きてきました。11年前に独立してからは、アートを媒体に美術館や学校、病院や地域といった現場でのNPO活動に夢中の日々です。この間、1年だけシンクタンクの仕事に就いたことがありますが、アートと無縁で窒息状態。それが自分の酸素であり、ライフラインなのだと改めて認識した貴重な経験でした。

 独立して初めてオーガナイズしたのは、アントレインド(Untrained)といわれる、美術教育をまったく受けていない、全米のアーティスト38人の作品と作家を紹介する展覧会でした。
 刑務所でハンカチに自分の体験を描く人。奴隷解放後85歳にして突然おびただしい量の絵を描き出した天才。ゴミ捨て場から漁ったもので絵を描くNYのホームレス。土と砂糖で一日中楽しく絵を描く元農夫。神の啓示で制作が始まり家も庭も創作物だらけにした牧師。
 きっかけはさまざまですが、経済的に余裕がない、それまでアートに無縁な人たちが、強い衝動にかられて創作行為が始まった事実に非常に興味をもったのです。

 その中の一人、ジョージア州在住のR.A.Millerを訪れた時のことです。アトランタ州で展覧会の調査が済み、帰国前日にどうしても彼と直接会いたくなり、タクシードライバーと交渉。「1日付き合ってね!」とお願いし、ジョージア州までの長時間ドライブ。大まかな住所を頼りに探し回ってやっと辿り着いた小さな小屋。ベッドが一つとソファーだけで足の踏み場も無いゴミだらけの家でした。作家自身といえば、失礼ながらホームレスさながらの風体で困窮ぶりも明らかでしたが、気にする様子もなく、執着がない世捨て人のような清らかさを漂わせていました。そして作品は? というと、庭の外に並ぶ可愛いブリキアートたち。このおじいさんから、どうしてこんなキュートな天使が生まれるのか不思議でなりません。ドラム缶2本の間に板をのせただけの簡素な野外アトリエ。だから晴れた日にしか描けません。そんな彼に、なぜ制作するの? と聞くと「わからない。作りたいから」でも、「食べる」か「作る」のどちらか阻まれるとしたら、彼はおそらく「作る」方を選ぶのではないか? と思いつつ、彼の家を後にしました。

 彼らの多くはかなり本能的に創作行為をおこなっていて生存に必要不可欠にさえ見えました。祈りや救いのようでもありました。この展覧会は、「アートは余裕があって成立するもの。食べることが先決」という見方へのささやかな抵抗だったことを懐かしく思い出します。その開催で多額の借金を背負い、以降数年間処理に奮闘したことも、いまでは楽しい思い出です。

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R.A.Miller氏(左)
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Miller氏のアトリエ

 それでも懲りずに、いまもまた来年以降に開催したい展覧会の準備を進めています。
 アートマネジメントが、貧困や雇用問題、エイズ問題などといった社会問題を解決しているすばらしいケーススタディとして、南アフリカの団体とアーティスト、そして作品を紹介したいと考えています。ただし! 南アフリカはやはり用心が必要です。先日の出張で、初めて身も凍るような危険に遭遇しました。監禁、拉致、脅し、現金剥奪の上、見知らぬ所に放出、です。生きて帰れてよかったです。今後はリサーチのしすぎには要注意!

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「アマゾンの侍たち」展。アマゾン先住民の生き様を岡本太郎の言葉と重ねて紹介。
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「Street Art in Africa」展。街角にある床屋とコーヒーショップの現物を展示。
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同上。アート性に溢れるガーナの棺おけ
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南アフリカの「MONKEYBIZ」

 私のもう一つのライフワークが、子どもたちとアーティストをつなぐワークショップです。
 都内の電車で夜遅く見かける塾帰りらしい子どもたちのどんよりした目の色にショックを受けて活動を始めました。今年10年目になる「森のアート海のゲイジュツ」は、豊かな自然の中で身心を開放する環境体験と、国内外の刺激的なナビゲーターとのアート制作がセットになったプログラムです。上田麻希、栗田宏一、山口とも、ひびのこづえ、藤浩志、ジミー大西、日比野克彦、Ingrid Koivukangas(カナダ)、Marika Patrick(オーストラリア)、Nils-Udo(ドイツ)、Maikki Kantola(フィンランド)、Jozef Wilkon(ポーランド)など。
 私自身がご一緒するのが楽しみな方ばかりと極上のひと時を共有させていただいています。

森のアート海のゲイジュツ活動の様子

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Ingrid Koivukangas氏と植物の写真を使った転写作品に挑戦。
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Nils-Udo氏とのワークショップでは自然の中に美しい作品を制作。
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ひびのこづえさんと子どもたちが制作したワンダーハット
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アボリジニの伝統的なオーカ(土)で描くアート

 アートには目先の金銭的価値判断では計り知れない潜在能力があると思います。アートがもたらす刺激や美や感動は、空間に命を与え、社会を変え、人の心の色を塗りかえ、つなぎ、救うことだってできます。そんなポジティブな魔力をもった媒体に関わりながら生きていることを、心から幸せに思っています。

(2010年3月28日)

 

 

バトンタッチメッセージ
徳永さんはコスモ石油のメセナ開拓者として、多くの活動や才能を支援されてきました。
私が今あるのも、独立当初から支援していただいたおかげだと、心から感謝しています。
芸術文化の感知力にすぐれ、確固たるメセナマインドも持つ徳永さん。いまはまた新しいステージでご活躍の様子ですが、今昔のお話をお聞かせください。

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