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2020.その先への共創



2014年、当時ものづくりブランドとして知られていたSLOW LABELが「特定非営利活動法人スローレーベル」を設立し、横浜市の文化観光局と健康福祉局と共に立ち上げたのが「ヨコハマ・パラトリエンナーレ(以後、パラトリと表記)」である。企画の背景には、売れるものをつくれる人しか参加が叶わないものづくりのジレンマから脱却したいと思ったこと。また、ものをつくらない人の中にもわたしたちをワクワクさせてくれるユニークな視点や超人的な能力を持つ人は多く、現代アートの力でもっと大きな意味での社会貢献、つまり、<共創>という発想で彼らの類稀な能力をまちづくりに還元することができるのではないかと考えたことにある。パラトリは東京五輪・パラリンピックが開催される2020年をターゲットイヤーとし、3回にわたっての開催を計画している。突出した能力を持つ障害者とアーティストが協働して新たな芸術表現を生み出しながら、相互補完しあえる市民や企業を育て、街中にあふれる障壁を取り除く。2021年以降に「障害者」という言葉をなくすことをめざしている。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 会場風景
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 会場風景

パラトリで新たに挑戦したことの一つに、パフォーミングアーツがある。2012年のロンドン・パラリンピックの開会式で、多様な身体的特徴を持つダンサーたちの障害に対する既成概念を打ち破るパフォーマンスに感銘を受け、日本でも同じようなことをしてみたいと思ったからだ。まずは、横浜市内の障害者施設へアウトリーチ活動を始めた。身体を動かして表現することが好きな人が大勢いることに驚いた。しかしその手応えに反して、象の鼻テラスで開催した障害のあるなしを限定しないワークショップでは、障害者の参加に予想以上の苦戦を強いられた。アクセシビリティに課題があったのだ。例えば、一人では来られない参加者は家族や職員の都合に左右される。当日体調が悪くなったら、他の参加者に迷惑をかけたら、という不安がバリアとなって申し込むことを躊躇う、といった具合だ。既に十分な表現者人口がいた上で、文化オリンピアードが契機となり、インクルシブな活動をする者たちの活躍の場が増えた英国との差を、この時、改めて思い知らされた。

金井ケイスケ氏によるワークショップの様子
金井ケイスケ氏によるワークショップの様子

そこから2年間、アクセシビリティ改善を目標に「SLOW MOVEMENT(スロームーブメント)」というプロジェクトを立ち上げ、支援人材の育成と技術開発に取り組んだ。様々な事情を抱える人が参加した場合に、創作の過程で起こり得るハプニングを予測し、事前にそれを回避する力をつける。チームを結成し、毎回少しずつテーマや環境を変え、着実にスキルを身につけてきたことで、障害のある人の申し込みが、障害のない人を上回り、難易度の高い表現にも挑戦できるようになってきた。更に、各地の自治体や公共文化施設が活動に興味を持ちはじめ、課題やノウハウを共有できる横のつながりも出来てきた。

SLOW MOVEMENT –The Eternal Symphony 2nd mov. -
SLOW MOVEMENT –The Eternal Symphony 2nd mov. -
SLOW MOVEMENT -Wonder of View-
SLOW MOVEMENT -Wonder of View-

2016年12月には、「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」という新たな活動拠点を持つこともできた。ここには、ロンドンで導入された空中トレーニングの設備が入り、これまでの表現力を磨くワークショップから、ひとりひとりの心身のパフォーマンスを上げるためのトレーニングへと段階が進み、理学療法士やパーソナルトレーナーと連携したプログラムの開発がはじまっている。これは、プロを目指すダンサーに限定するものではなく、日頃心身を鍛える機会の少ない障害者の健康増進にも役立つプログラムとして、医療分野からも期待を寄せられている。

新豊洲Brilliaランニングスタジアムでの空中トレーニング
新豊洲Brilliaランニングスタジアムでの空中トレーニング
新豊洲Brilliaランニングスタジアムでの身体トレーニング
新豊洲Brilliaランニングスタジアムでの身体トレーニング

巨額の投資が伴う五輪・パラリンピック開催については賛否両論ある。しかし、ここに書いたことは全て2020年の東京大会開催という後押しによって実現していることだ。2021年以降の社会を憂うるならば行動を起こしたい。障害は個人ではなく社会の側にある。地域の様々な活動や場をインクルシブにできる人材が育てば、多様な人がもっと社会に参画できる。今の日本社会の閉塞感を打開するには、こうした多様な生き方や価値観を持つ人の力が必要だ。

(2017年5月25日)


今後の予定

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017
sense of onenessとけあうところ

  • 第1部:創作 2017年5月27日(土)〜9月30日(土) 横浜市内及び国内外各所
  • 第2部:発表 2017年10月7(土)〜9日(月・祝)象の鼻テラス・象の鼻パーク
  • 第3部:記録展示 2017年 11月〜12月下旬 横浜ラポール、横浜市内各所

公式サイト:http://www.paratriennale.net

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