アートマネジメント事始め

リスク・マネジメントとは

リスク・マネジメントとは

 「リスク」とは大辞林によれば「危険。危険度。また結果を予測できる度合い。予想通りにいかない可能性」といった解説がされています。最近では新聞にもリスクはごく当たり前に使われています。危険と訳されていますが、事故の発生する可能性であると言えます。
 「リスク・マネジメント」を定義すると、企業活動で生じるさまざまな危険を、最少の費用で最小限に抑えようとする管理手法です。

歴史的背景

 リスク・マネジメントは、1950年代アメリカで保険を合理的に手配する手法として確立されたものです。1970年代に労働保険(日本の健康保険にあたる)の赤字やアスベストによる健康被害にかかわる保険金支払いの増加で民間保険会社が赤字となり、保険料の値上げにつながり、それでも赤字が埋まらないような状況で引受の謝絶といった問題が発生することになり、各企業はどのようにすれば保険を買うことができるのかを研究するようになりました。労働保険では、従業員の健康増進をはかるためのプログラムを作成し医者にかかることのないようにしていけば自然と医療費の保険請求が減少し、赤字から黒字に転換すれば労働保険の引き受けが可能になり、さらによくなれば安い保険料を得ることができるようになります。リスク・マネジメントはこのように、保険手配の方法から、リスクを洗い出しそのリスクをコントロールする手法へと変化してきました。

 現代のリスク・マネジメントは、保険手配の方法ではなくリスクの発見・洗い出しの上、リスクを防止軽減する方法(リスク・コントロール)を徹底します。リスク・コントロールを徹底しても現実にリスクは発生してしまいます。経営への影響を軽減するため、最小の費用で最大の効果をあげるための方法がリスク・ファイナンスです。リスク・ファイナンスの代表的な例が、損害保険です。

 最小の費用で最大の効果をあげるためすべてのリスクに保険手配することが合理的なのかを検討する必要があります。小さな損害などは、企業によっては保険手配するより、リスクを保有(リスクを他に転嫁せず自らかかえること)した方が有利な場合もあります。現代のリスク・マネジメントは、保有と保険をどう組み合わせると最良のプログラムになるのかを検討する、総合的なリスク対策に変化していきました。

リスク・マネジメントのプロセス

リスク・マネジメントのプロセスは、以下の過程を経て一巡することになります。

  1. リスクの洗い出し/発見・評価
  2. リスクの防止・軽減(リスク・コントロール)
  3. リスクに対する経済的備え(リスク・ファイナンス)
  4. プロセスの実行・評価

 ビジネスは一回限りではなく、時間の経過とともに、技術革新の結果、リスクが変容します。リスク・コントロールの機材やツールが進歩すれば、事故が発生する危険を減少させることが可能になります。技術革新によりリスクが減少すれば、保険料率の引き下げにつながることになります。防災技術の進歩とともに保険の内容も改良されます。そのため1から3のプロセスを常に実行・評価し、リスク・マネジメントも見直しが必要で重要です。

 これらの過程は、アートの世界でも適用できるものです。ではなぜいまアートの「リスク・マネジメント」が必要なのでしょうか? 次回、それを解説したいと思います。

(2010年5月15日)

 

プロフィール


箱守 栄一
(はこもり えいいち)
美術品リスク・コンサルタント

1948年、東京に生まれる。70年立教大学経済学部卒後、東京海上火災保険(株)入社。同社にて主に美術展の保険引き受けに約30年関わり2001年三菱系企業の関連会社に保険部門の責任者として出向転籍。08年同社退職後美術品リスク・コンサルタントに転身。91年4月に慶應義塾大学文学部に開講された「アートマネジメント講座」にて毎年アートのリスク・マネジメントについて講演。2005年慶応義塾大学大学院アート・マネジメント分野にてアートのリスク・マネジメントを非常勤講師として担当。2009年3月から文化庁の国家補償制度検討協力者会議委員とそのワーキンググループ座長に就任。現在実現に向け取り組み中。保険会社の目から見たリスク・コントロールを研究し、機会があれば現場に足を運びマネジメントの実際を見聞し研究している。事故の現場には次の事故を防止するヒントが必ずあり、阪神・淡路大震災の際にはボランティアとして文化庁の文化財レスキューにも参加。日本の美術展国家補償制度の創設をライフワークとして取り組む。アートのリスク・マネジメントを主な研究テーマとして取り組む。

おすすめの一冊

『図説 企業リスクのすべて その事例と対策』 東京海上火災保険企業リスクコンサルティング室 東洋経済新報社 1995年

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