ネットTAM

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名古屋セッション

アートマネジメントの魅力

―これからの暮らしをアートで耕す―
開催日: 2000年9月 1・2・3日
開催地域: 名古屋
会場: 愛知芸術文化センター アートスペース
ジャンル: 総合
参加者数: 668人
コーディネーター: 愛知県文化情報センター  越後谷卓司

愛知県での初の開催となった「トヨタ・アートマネジメント講座」(TAM)は、通算で30回となる節目の記念大会で、98年7月東京の第14回大会以来、2度目の3分野を総合した合同セッションであるという意味でも、画期的な場となった。

近年、美術の分野では、作品がある枠組みの中で純粋に完結するのではなく、作家からの問題提起に基づいて一般の鑑賞者がその成り立ちに参加する、いわゆる「プロジェクト型」の作品を多く見るようになった。演劇や舞踊、音楽において数多く行われるワークショップや、市民の出資や参加による映画の製作も、またしかりである。

そこには、社会において芸術が担う役割や、芸術への市民参加のあり方の模索という側面が読み取れる。こうした状況を反映してか、今回、愛知県で初開催にもかかわらず、多数の参加者があり、この地においてアートマネジメントへの関心を持つ潜在的な層の厚さの驚かされた。

その成果としては、まずアートマネジメントの基礎的事項を伝え、さらにその奥深さや可能性を知る機会としての役割を果たしたといえよう。また、この地域の今後の芸術活動への刺激という点でも、例えば「芸術交流広場」が、当地の芸術団体や文化機関の活動をアピールする場としてはもちろん、ジャンルを越えた出会いと人材の交流する機会として、より積極的に活用されたいう形となって反映されていた。実際、これ以降この地で行われたいくつかのアートイベントの運営面などで、「TAM」をきっかけに生まれた協力関係が活かされていたようだ。分科会として行われたワークショップの「美術編」に演劇関係者が参加したり、あるいは、演劇とは縁がなかったにもかかわらず講師への関心から「演劇編」に参加した受講者がいたりと、ジャンルを越えた出会いや触れ合いがあったことも、3分野の合同セッションならではのことで、今回の「TAM」への反応の中でも、最も嬉しいものの一つとして深く印象に残っている。

[愛知県文化情報センター学芸員 越後谷卓司/01年7月]

TAM開催地のその後

「あいちトリエンナーレ」へと続く道に「TAM」はあった


 今年、愛知県は、2回目となる「あいちトリエンナーレ2013」の開催を控えている(会期:8月10日(土)〜10月27日(日))。

 「あいちトリエンナーレ」の特色の一つは、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」などの山村や離島で行う野外型の現代美術展ではなく、愛知芸術文化センターの所在地である名古屋を中心に開催する、都市型の国際芸術祭であることだろう。初回の2010年には美術館内だけでなく、繊維問屋街である長者町のビルや空室、壁面、あるいは路上などを活用し、現代美術作品の展示やパフォーマンスを行ったが、今回はそれに加え、岡崎市でも同様の屋外展開を行う予定である。
 もう一つの特徴は複合性で、前回同様、美術展示のみならず、オペラや演劇、ダンスなどの公演、実験映画やドキュメンタリー、劇映画など、ジャンルを横断する視点から選んだ映像作品の上映会も行う計画だ。コンテンポラリー・ダンスや現代音楽、実験的な映像作品を専門とする、われわれ、愛知県文化情報センターの学芸員も、それぞれの分野のプロデューサーやキュレーターとして仕事を進めている。現在、世界各地でビエンナーレやトリエンナーレと名のつく現代美術展が行われており、付加的な小規模の公演や映画上映を行う事例はあるかもしれないが、これほど本格的に取り組んでいるケースは稀有ではないだろうか。

 ところで、芸術の複合性というのは、美術館と劇場という、展示と公演の両面にわたって専門的、本格的な事業を成立させるハードを有した複合文化施設として、1992年に開館して以来、愛知芸術文化センターが追求してきたテーマであった。「あいちトリエンナーレ」の開催は、その一つの解答ともいえるのだが、振り返ってみると愛知県文化情報センターは複合性の実現のために、愛知県美術館名古屋市美術館が合同で企画した「環流 日韓現代美術展」に合わせ、「日韓音楽祭」をはじめとする日本と韓国の文化の相互交流を意図した「HUMAN COLLABORATION'95」や、「舟の丘、水の舞台」(1996年)のようなセンターの共有スペース「フォーラム」を舞台にしたコラボレーション公演を行ってきたのだった。

 「アートマネジメントの魅力」と題し、2000年に名古屋で初めて行われた「トヨタ・アートマネジメント講座(=TAM)」も、美術と公演の分野にまたがった企画であり、ジャンルを越えて双方から関係者が集う画期的な場となった。「あいちトリエンナーレ」へと続く道に「TAM」はあったのだと思いたい。

(2013年3月15日)

注目! 現地情報

あいちトリエンナーレ2013
2010年に続く第2回目。都市型国際芸術祭として国内外から注目を集める。

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