ネットTAM


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イチゴーゴーゼロの夢

リレーコラムが新しくなりました。 現場で活躍中の方をスーパーバイザーとして各ターム1名お招きしてテーマを設定します。そのテーマでバトンをつないでいくリレーコラム。初回スーパーバイザーは若林朋子さんです。プロジェクト・コーディネーター/プランナーとして全国各地の現場を飛び回る若林さんから5名の方々にバトンを渡していただきます。

このたび、「新・リレーコラム」最初の話題提供者を仰せつかりました。

「ネットTAMリレーコラム」といえば、ネットTAM開設当初からある長寿コンテンツ。2004年10月から脈々とバトンが受け継がれ、2015年の4月までに124名のコラムが掲載されています。そこには、124通りの「現場」があり、世界観も実に多様。コラムを読むたび、いつかこの現場にうかがってみたいと思っていました。

さて、今回再スタートする「新リレーコラム」とは?
1か月ごとに執筆者が交代するスタイルは変わりないのですが、まずはネットTAM運営事務局から提示されたテーマを話題提供者が自分なりに受けとめ、5〜6名の執筆者を指名してテーマを伝え、書いてもらう新たな方式なのだそうです。1ターム半年かけて、1つのテーマを異なる視点で見ていくというのは、おもしろい試みだと思いました。今後6か月間、執筆者や読者の皆さんと対話して、ここから何か小さな芽が生まれたらいいなと思っています。

今回ネットTAM運営事務局からは、以下のお題をいただきました。

2020年、オリンピックが東京で開催されます。ロンドンオリンピックよりスポーツの祭典とともに文化の祭典の側面がクローズアップされ、その流れのなかで東京大会においても文化プログラムを全国で展開する動きが注目されています。その際に活躍が期待されるアートマネージャーを応援していこうとネットTAMでは各コンテンツにおいて、2020年オリンピックに触れています。今回のコラムでは、アートに携わる方々にご登場いただき、2020オリンピックに向けて現場がどのように思い、考えているのか? 日々の仕事や最近注目していること、関心ごとなどを通して自由にお書きいただきます。

このお題をいただいた頃、折しも、東京オリンピック・パラリンピック大会のメイン会場となる新国立競技場の総工費が2520億円もかかると判明して、世の中がちょっとした騒ぎになっていました。そのうちに、大会エンブレムのデザイン問題も発生。競技場以上の大騒ぎになり、「オリンピックだいじょうぶか?」という空気が漂いました。私は、これらの騒動が対岸の火事とは思えず、なんだか気持ちがへこんでおりました。何かを選考する際のプロセスや、全体のグランドデザインの描き方、責任の所在、事務局運営でのつまずき、関係者・専門家と一般人の感覚の違い、おそろしいほどの糾弾などは、どの仕事でも──アートのマネジメントでも無縁ではなく、いろいろと考えさせられました。一方で、オリンピックというのは個人が自分の意見を表明しやすいテーマなのだということも感じました。

新リレーコラムでは、オリンピックを題材に何を掘り下げたらいいだろうか──騒ぎのなかで、妄想は二転三転。事務局のお題の通り、「文化プログラムを念頭に、オリンピックに向けて現場がどのように思い、考えているのか自由に書いてもらう」のもいいのですが、すでにネットTAMの他のコンテンツでもそれを展開されているので、せっかくなら何か違う要素を持たせるのはどうだろう。また、アート関係者すべてが、2020年東京五輪をひとつのエポックとして、文化プログラムに向けて何かを考えなくてはいけないかというと、違うような気もして、それを前提に執筆を依頼するのもためらわれました。「オリンピックと文化プログラム」からもうちょっと幅を広げ、何かを考えてもらう機会にできたらと思いました。

ところで、「ネットTAM」含む「トヨタ・アートマネジメント(TAM)」は、トヨタ自動車が1996年6月にスタートした活動です。来年2016年に、なんと20周年の節目を迎えるのですね。前半の8年間は、アートを通して地域社会を活性化する「地域のアートマネージャー」を各地で育成するトヨタ・アートマネジメント講座を展開。行政、文化機関、地域などさまざまなレベルで地元密着型のアートマネジメントが盛んになることを目的に、全国32地域で53回開催して、のべ約1万人が参加しました。コンサートや美術展など「芸術家の発表活動」に対する支援が企業メセナの主流を占めるなか、トヨタがTAMを始めたのは、「ソフト=芸術創造活動の充実」と「アートが広く社会に受け入れられ、自立していくためのマネジメントの充実」の2つが今後は必要になるという、確たる認識があったからとのこと。開始当初はNPO法もまだ整備されていない時代でしたが、後々アートNPOとして各地で大活躍する方々や学生さん、研究者、各地のメディアなどが講座をともに盛り上げ、議論し、各地の関係者がゆるやかに継続的に行き来しました。2004年からは活動の場をネットに移し、アートマネジメントの総合情報サイトとして、現場に必要とされる情報の集配を続けています。

20年も続くと、「動向」や「変化」を追いかけ、蓄積していくことも可能になります。意識されていたかわかりませんが、TAMをつくりあげたディレクターの方々は、初期段階から、しっかりとその「仕込み」をされていました。『トヨタ・アートマネジメント講座の軌跡』という4冊の報告書です。2〜3年に1度まとめられたこの冊子は、発行時のアートマネジメント状況を4ディレクターがそれぞれの視点で冒頭にまとめ、講座開催1〜2年後の状況を各地の講座主催者(地域コーディネーター)が述懐。つまり、定点観測の貴重な記録を積み上げていたのです。この定点観測は、ネットTAMでも継承し、「TAM開催地のその後」と題したコンテンツで、5年後10年後にTAM開催当時を振り返り、その間のさまざまな変化を綴ってもらう寄稿が掲載されていました(現在、同コンテンツは終了しているようです)。アートマネジメントの20年の蓄積と変化を見つめ続けてきたのがトヨタ・アートマネジメントなのだと思います。

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そうなれば、新リレーコラム最初のテーマは、ベクトルの向きをくるりと変えて、執筆者の皆さんに「未来」について思いっきり書いていただいてはどうだろう。そんな思いに至りました。未来語りは、どんな想像も野望も提案も自由ですので、TAMらしいように感じました。「未来」の時間設定は、来年のことでも5年後、10年後の計画でも、執筆者にお任せします。ただし、今回は1つだけ、設定を施したいと思います。それは、「もし1550億円の予算を手にしたら、あなたはどのような未来づくりをしますか?」という問いです。この問いは、過去のリレーコラムのなかで最も記憶に残る、第16回リレーコラム執筆者の樋口貞幸さん(アートNPOリンク)から、第17回コラム芹沢高志さん(P3 art and environment)へのバトンタッチに対するオマージュです(芹沢さんは樋口さんの問いを受け、「もし億千万の自由に使えるお金があったなら、本当のところ何をしたいのか」を返答されました)。

今回は、リアルに予算額(1550億円)を設定します。アートマネジメントは、いつの時代も、夢と現実の狭間でのせめぎ合い。夢に必要なお金のことも、あわせて具体的に語っていただこうと思います。

夢を語る土俵については、狭義の「芸術」にとどまらず、ゆるやかに「創造的な領域」で、と思います。まちづくり、衣食住、医療福祉、農業、観光、IT、教育など、さまざまな領域との交差も、今後のアートマネジメントには確実に必要だと考えるからです。オリンピックの文化プログラムについても、もし何かお考えや提案があれば、書いていただけたらと思います。

10月〜3月の半年間、このテーマをともに考えていただく5名の執筆者は、この段階で全員のお名前は出さず、毎月1名ずつ紹介していきます。

最初のバトンは、名古屋の港エリアでまちづくりを推進する「港まちづくり協議会」MAT, Nagoyaプログラムディレクターの吉田有里さんにお渡しします。「なごやのみ(ん)なとまち」をつくる同協議会は、「創る」「暮らす」「集う」を掲げて、ユニークで気になるプログラムを数多く展開。発行物もすてきです。2015年10月4日には、満を持して、名古屋の港まちをフィールドにした新しいアートプログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya(MAT, Nagoya)」を始動。待望の新拠点「Minatomachi POTLUCK BUILDING」もオープンします。この場を切り盛りする吉田さんは、経験の引き出しがいっぱい。協議会の取り組みでも、吉田さん個人の未来でもいいので、「1550億円の夢」をおおいに語ってください。アートとかかわるようになった、あのきっかけ話もぜひに。よろしくお願いします!

参考データ

  • 東京ディズニーランドの総工費:約1580億円
  • 新国立競技場総工費予算:1550億円程度
  • 海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)の文化発信投資計画:5年間で1500億円
  • 平成27(2015)年度文化庁予算:1037億9200万円
  • 文部科学省人工知能(AI)開発予算:10年間で約1000億円(年間約100億)
  • 芸術文化振興基金設置当初の基金総額:661億円
  • 東京スカイツリー総事業費:約650億円(建設費は約400億円)
  • 国際交流基金アジアセンター総額予算:7年間で300億円
  • 東京芸術劇場大規模改修(2011~12年)工事費:84億円
  • 平成26(2014)年度文化芸術振興費補助金の助成総額:34億6500万円
  • 平成26(2014)年度芸術文化振興基金助成総額:11億3300万円
  • 平成24年度1世帯当たり平均所得金額(全世帯):537万2000円

今後の予定

[取材]各地
[書く]アーツカウンシル東京ブログ「見聞日常」(月1回程度)
[監修]芸術系大学情報サイト(開設準備中)
[編集]公益社団法人日本フィランソロピー協会機関誌『フィランソロピー』(偶数月発行)
[講座]秋田公立芸術大学「AKIBI plus」(2016年1月21日)
[花・野菜栽培]秋冬支度

関連リンク

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三陸・大船渡の碁石海岸にある「鮮魚シタボ」さん
三陸国際芸術祭の帰りに友人が連れていってくれた鮮魚店です。何を食べても、この上なく新鮮でおいしく、驚きの安さ。出汁いらずに開発された「つみれ汁」用のすり身も絶品。さばいてもらって持ち帰ったアナゴを焼いて食べたら、あまりのぷりぷりジューシーさに、今まで食べてきたアナゴが別の魚に思えました。津波でお店を流失、仮設店舗を経て、2015年春に本設店舗で営業を再開。主のご夫妻もすてきです。大船渡に行ったらぜひ「鮮魚シタボ」でおいしい魚を! 直送可。

シタボママの日記
・店舗電話:0192-29-3312

次回執筆者

もし1550億円の予算を手にしたら、あなたはどのような未来をつくりますか? 目次

1
イチゴーゴーゼロの夢
2
イチゴーゴーゼロの使い方
3
世界一の文化大国へ
4
1550億円がなくともいずれは実現させたい妄想
5
「場」のサステナビリティと2116年に向けた新たな布石
6
人に賭ける
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