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日本のアーティスト・イン・レジデンス(2)

―主体や分野の多様化と世界の注目


 近年は、地方自治体ばかりでなく、札幌に拠点を置くS-AIR(SAPPORO ARTSIT IN RESIDENCE)、徳島県の神山町で活動しているグリーンバレーといったアートNPOが、地域のニーズや特色に沿ったアーティスト・イン・レジデンスを展開するようになっています。例えば、S-AIRに滞在するアーティストは、魚市場で不要となった魚の木箱を利用してダイナミックな作品を制作したり、アーティストが小学校に転校生として滞在するアーティスト・イン・スクールなどのアウトリーチ事業や、スノウ・スケープ・モエレといった雪の季節のアート・フェスティバルに参加するなどして、札幌の地域性をうまくいかした事業を展開しています。また、徳島県神山町のグリーンバレーは、アートの専門家に運営や選考を任せるのではなく、地域に必要な人材はその地域に住む住民たちで選ぼうと試行錯誤しながら、地域の特色をいかした「神山アーティスト・イン・レジデンス」を運営しています。

 これまでアーティスト・イン・レジデンスは、どちらかといえばヴィジュアル・アートのプログラムが多かったのですが、現在は、演劇やダンスなどのパフォーミング・アーツ分野でのレジデンス・プログラムも増えています。横浜の急な坂スタジオでは演劇を中心としたレジデンス事業を、京都に拠点を置き、アジア各国でも「踊りに行くぜ」を成功させているジャパン・コンテンポラリー・ダンス・ネットワーク(JCDN)は振付家のレジデンスを、神戸で活動を再開したDance Boxはレジデント・エクスチェンジプログラムを持っており、舞台芸術の分野でもますます活発に行われるようになっています。また、つくば市に拠点を置く自然生クラブは、知的障がい者のレジデンス事業として「ディファレント・アーティスト・イン・レジデンス」を2004年から始めており、日本各地で多彩なAIRが展開されるようになっています。

 「Cool Japan」といわれるように、若者のポップ・カルチャーに魅せられて日本を訪れる外国人が増加していますが、日本のアーティスト・イン・レジデンスの場合も同様です。たとえばあるAIR施設では、年間2名~3名の招へい枠に対し、世界各国の300人以上ものアーティストから応募があり、倍率が100倍となることもあるなど、実は非常に人気が高いのです。

 最近では、オーストラリア政府が2009年から越後妻有にオーストラリア・ハウスを立ち上げましたし、同年、カナダのケベック州政府は六本木ヒルズのレジデンスを借り上げ、ケベック州からアーティストを派遣しています(ケベック・アーティスト・スタジオ東京)。また、現在、京都ではドイツ文化センターがゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川の立ち上げを準備しています。

 さらに、文化庁は平成23年度予算として「文化芸術による元気な日本復活プラン」のひとつとしてアーティスト・イン・レジデンス等を通じた地域の海外発信拠点の形成をめざして2億円の予算を計上し、国会で可決されました(「クリエイティブ・ニッポン発信!プロジェクト」)。2012年には、本連載第1回で紹介した国際的なAIRのネットワーク組織であるRes Artisの総会がRes Artisの総会が開催される予定です。今後ますます多彩で豊かなAIRが日本各地で展開されていくのではないかと思います。

 かつて日本では、地方の富豪や豪農、寺社仏閣が画家や職人などを招き、自宅に逗留させ、ふすま絵、天井画、小物などの作品を委託し、制作させていました。こういったことも、日本のアーティスト・イン・レジデンスの原点の1つともいえるのかもしれません。

(2011年6月15日)

※本シリーズは全4回の連載です。次回は2011年7月に掲載予定です。

アーティスト・イン・レジデンス入門 目次

1
アーティスト・イン・レジデンスとは
2
日本のアーティスト・イン・レジデンス
3
日本のアーティスト・イン・レジデンス(2)
―主体や分野の多様化と世界の注目
4
日本のアーティスト・イン・レジデンスの課題と可能性
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