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Q&Aその1

「アート的な手法」の解決策と「曖昧」のジレンマ


浜松市と協働で制作した、障害を知らない人に伝えるための本。

たくさんのご質問をいただき、皆さまありがとうございました。今回は2回に分けて、そのなかから3つの質問に対して、久保田翠さんからの回答を掲載します。

Q1:「それよりも、アーティスト、あるいはアーティスト的な性質も持つ人材が、教育、医療、福祉、環境、行政などのスタッフとして現場に入りこんで、内側からアクションをじわじわと起こして欲しいと思う。それぞれの現場にある課題を「アート的な手法」で解決しようとしたときに、いままで思いもよらなかったことが起こる。それによって、そういう思考をしなかった現場の普通の人たちにも伝播していく。こうすることによって、社会のいろいろな構造が変わってくるのではないかと思う。」とありますが、この具体的な事例があれば教えてください。(学生)

Q2:「二項対立の限界」の項目で、「今こそ、境界を曖昧にする試みが求められている」とありますが、曖昧さが生き方の豊かさを広げる一方で、施設の運営など実務的な部分では困難なことも生じるのではないかと思ってしまいます。例えば、助成の申請の際には誰が対象か明記する必要があり、そのときにどうしても、定義づけという意味で境界線を引かざるをえない状況になるのではないかと思います。そういった課題をどうクリアしていますか?(学生)

アート的な人材がさまざまなところでどのように活躍するのか、曖昧なことを仕事にしていくことを含めて、てまえみそですが、好き勝手に書けるので、私が運営している法人を例にお答えします。

クリエイティブサポートレッツの事業は大きく2つに分かれています。障害福祉施設運営を行う福祉事業と、居場所提供やアートプログラムを行う文化事業です。財源も、福祉事業はアルス・ノヴァの収益、文化事業は委託や助成金です。

障害福祉施設アルス・ノヴァは、法定施設(国の認可を受けている施設)です。最重度から軽度の知的障害と、精神障害、発達障害の人など、毎日30人から40人の障害のある子どもと大人が通ってきています。ほとんど個別対応で、メニューのつくり方は「やりたいことをやる」「存在することを仕事にする」「問題行動を仕事に変える」など、アート的で、革新性を目論んでいます。
設立以来15年間続けている文化事業は、ソーシャルインクルージョンを目指したアートプログラム提供しています。現在は「のヴぁ公民館」という私設自営の公民館を運営しています。

スタッフは17名。全員福祉未経験者で、前職もさまざまです。全スタッフが障害のある人の支援とアートプロジェクトの企画、運営両方にかかわります。
法定施設なので、支援の計画、報告、健康管理、労務管理、会計報告など、書類はかなりしっかりしないといけないです。昨年度認定NPO法人にもなり、コンプライアンスは必須です。
障害福祉は特別な教育を受けた人しかできないように言われますが、やってみてそんなことはないというのが実感です。

昨年度、浜松市障害福祉課からプロポーザルを経て、『ほとんど知らなかったグッズと人に出会える本』という障害福祉施設のガイドブックをつくりました。これは、浜松市の若い職員の方々の思いから始まった事業で、浜松市内の障害福祉施設が制作している雑貨などを特集すると同時に、主に「面白い人」という切り口で取材しました。かなり好評でした。
最近、地域の施設からも声がかかるようになり、一緒にワークショップやスタッフ研修を行ったり、舞台をつくろうと話をしています。
近隣も同じで、浜松市西区入野町に来て5年間、こちらから声をかけてもほぼ門前払いでしたが、ようやく地区のお祭りやイベントのお手伝いをさせていただけるようになり、イベントのつくり方の相談を受けるようになってきました。

商店街、企業とレッツがコラボレーションして行ったプロジェクト(ユリリンキノキ)
商店街、企業とレッツがコラボレーションして行ったプロジェクト(ユリリンキノキ)

2011年から始めたたけし文化センターINFOLOUNGEでは、中心市街地の寂れてしまった通りの駐車場ビルのオーナの「街を元気にしたい」という思いを応援することから始めました。無償で1階スペースを提供してもらい、スタッフ2名を配置し、近隣の人たちの居場所をつくり、来た人たちの「何かやりたい」という思いを実現するといった、ほぼ手弁当的な事業を3年間続けました。すると見事に若いクリエイターが集まり、このビルでさまざまなことが始まりました。それが伝播して、ちょっと素敵な界隈になっています。現在は元スタッフが、引き続き場所を継続しています。

ここは比較的、早くにいろいろなことが動き出しました。それは、アート好きな人たちが集積しやすかったことにあると思います。
それに比べて、福祉はアートが「好きではない」「関心がない」人たちが多くいる世界です。わけのわからない、よくわからない、むしろ危険な感じもするものを見たい、触りたい、取り込みたいとは思わないです。
設立以来10年間はまったく相手にされませんでした。しかしその後、障害福祉施設を自ら行うことで、少しずつですが信頼を得ることができました。
相手に安心感を与えなければ物事は始まらないのだとつくづく思います。

どこの業界、環境にもおもしろいことを考えている人、真剣に変えようとしている人はいます。アートNPOの役割は、こうした人たちとつながり、応援しながら、一緒におもしろいと思うことを実現することだと思います。また、そうした積み重ねによって、その人たちが職場や現場で認められ、元気になり、また誰かに伝播していくと思います。
私たちは、どうやったら、アートに関心がない業界の、組織のなかにいる、自分たちに近い感覚の持ち主が元気に振舞うことができるか。それを全力で応援することも大切ではないかと思います。

外圧ではなく、中側からの変革。
あるいはアルス・ノヴァのように、同じ釜の中に飛び込んでみるなど。
それがアートのイメージを変え、親和性をつくっていくのだと思います。

次回は、「オリンピック・パラリンピックが東京で開催されること」についてお答えします。

(2015年11月7日)

オリンピック・パラリンピック(2) 目次

1
境界を曖昧にする
〜オリンピック後の幸せの価値観
2
Q&Aその1
「アート的な手法」の解決策と「曖昧」のジレンマ
3
Q&Aその2
文化・芸術が期待すること〜そこから最も遠い人たちへ〜
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