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これまでの経緯

— 劇場法(仮)の2つの側面


1.劇場・音楽堂の機能を定義する

 劇場法(仮称)の議論の経緯を考えると、大きく2つの側面があります。1つは、2001年に施行された文化芸術振興基本法に対する個別法として、「公の施設」では対応できない劇場・音楽堂の機能を明確にするために必要だったことです。

 同法第25条では、「国は、劇場、音楽堂等の充実を図るため、これらの施設に関し、自らの設置等に係る施設の整備、公演等への支援、芸術家等の配置等への支援、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする」と定められました。基本法は施策の大綱を示すだけなので、文部科学大臣と文化庁長官の諮問機関である文化審議会が、2002年に「文化芸術の振興に関する基本的な方針について」を答申し、閣議決定されました。このなかで劇場・音楽堂等に対し、「法的基盤の整備や税制上の措置」が明記され、個別法の必要性がうたわれました。方針では公演や芸術家配置への支援、安全な環境の確保、職員研修の充実なども明記されました。劇場の機能として必要だと考えられていたことが具体的に盛り込まれた、画期的な内容でした。第2次(2007年)、第3次(2011年)の答申にも受け継がれ、第3次では「法的基盤の整備について早急に具体的な検討を進める」と、法律制定をより促す記述になりました。これを受け、文化庁が2011年12月に「劇場・音楽堂等の制度的な在り方に関する検討会」を設置したのです。

 劇場法(仮称)の議論が活発になった背景には、社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の存在があります。俳優、ダンサー、演奏家といった舞台芸術の実演家団体などが集まった上位組織で、実演家の利益代表として1970年代から国に対する政策提言を行っています。文化芸術振興基本法についても1984年から必要性を提起し、断続的に研究を続けてきました。この過程で「芸術文化機関」として劇場に対する個別法の制定にも言及し、数次にわたってプロジェクトを組んで内容を練り上げてきました。これに全国の公共ホールが加盟する社団法人全国公立文化施設協会(全国公文協)も呼応する形で、現在の劇場法(仮称)提言にいたったのです。時系列で動きをまとめます。

1)第1次プロジェクト「劇場事業法(仮称)」の提案[PDF](2002年)
 単なる集会施設としてのホールと、「創造の場」としての劇場はまったく異なるとし、両者を差別化して劇場に特化した法律を制定すべきだとしました。あえて「劇場事業法(仮称)」という名称にしたのも、劇場(ハード)と事業(ソフト)が不可分のものだという考えに立ったもので、この理念はその後の提言にも受け継がれていきます。

2)第2次プロジェクト「拠点劇場」の考え方[PDF](2003年)
 民間も含めた第一線の劇場プロデューサーが参加し、自治体単位で考えられてきた公共ホールを、観客をともなう興行の観点から「経済圏としても成立する一定規模の社会経済単位」で設置されるべきと提言しました。創造環境に携わる人材ももっと流動化すべきだとしています。現実を直視し、地域格差があることをはっきり認めた内容でした。

3)第3次プロジェクト「創造型劇場」「提供型劇場」を定義[PDF](2004年)
 「拠点劇場」は地域内外の劇場や組織と相互補完しながら発展すべきだとし、「創造型劇場」「提供型劇場」「コミュニティ・アーツ・センター」「集会施設」の4種類に類型化。「創造型劇場」が「拠点劇場」、それに「提供型劇場」を含めたものを「公共劇場」と定義し、芸術監督などを配置してプログラムに責任を持つことを求めました。民間劇場も対象となっており、2003年施行の指定管理者制度で公共ホールを民間組織が運営したり、公共性の高い民間劇場による新しい「公共劇場」像を描くことも可能だとしています。

4)全国公文協のモデル案(2006年)と劇場等演出空間運用基準協議会発足(2007年)
 全国公文協が「公立文化施設の活性化についての提言」として、「公演芸術作品創造中心」「地域住民支援中心」「鑑賞機能中心」の3モデルを提案。芸団協では安全な環境や職員研修の研究が始まり、劇場等演出空間運用基準協議会として劇場スタッフの団体が集結しました。ここでまとめられた「劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン」は、安全衛生管理の具体的手順を詳細に定めたもので、劇場法(仮称)議論の大きな収穫だと思います。

5)第4次プロジェクト「社会の活力と創造的な発展をつくりだす劇場法(仮称)の提言[PDF]」(2009年)
 全国公文協のモデル案とも比較検討し、公共ホールから劇場・音楽堂を全国に生み出すべきだとして、劇場法(仮称)で定めるべき内容を規定しました。定義、事業、人材の配置、国の協働・認定、支援、事業体と施設の関係などで、指定管理者を置く場合は非営利で期間を区切らないことを求めています。芸団協案の正式名称は「社会の活力と創造的な発展をつくりだす実演芸術の創造、公演、普及を促進する拠点を整備する法律」です。

6)総合的な政策提言「実演芸術の将来ビジョン2010[PDF]」(2010年)
 ここまでは劇場法(仮称)中心の提言でしたが、国による具体的な支援をどう進めるか、不明な部分も少なくありませんでした。そこで発表されたのが「実演芸術の将来ビジョン2010」です。新たな助成制度を構築し、劇場・音楽堂への支援スキームをまとめています。法案提出を見越した具体的な内容です。

2.助成制度の枠組みを見直す

 劇場法(仮称)のもう1つの側面は、助成制度の枠組みを見直すことにあります。芸術団体に対する文化庁の助成制度としては、2004年度までは公演助成である舞台芸術振興事業と、団体助成である芸術団体重点支援事業(旧・芸術創造特別支援事業)がありました。後者は日本を代表する芸術団体への3年間継続支援でしたが、2005年度から公演単位の芸術創造活動重点支援事業に突然変わりました。「支援の目的及び対象を明確化する」と文化庁は説明していますが(内閣衆質171第179号)、2005年に発覚した不正受給が直接の要因でしょう。また、伊藤裕夫氏(文化政策研究者)は『公共劇場の10年―舞台芸術・演劇の公共性の現在と未来』(美学出版、2011年)で、「公の支配」に属さない団体への助成を禁じた憲法89条問題に触れています。この問題は国による私学助成でも議論になり、1975年に私立学校振興助成法が制定され、所轄庁による監督が強化された経緯があります。芸術文化といえども、根拠法のない助成は理解を得にくくなっているのです。

 2009年度からは、舞台芸術振興事業と芸術創造活動重点支援事業が統合されて芸術創造活動特別推進事業になり、公益法人に転換しない芸術団体への助成額はこれ以上増えないと考えられています。法人化できない若手などのために少額の芸術文化振興基金は残ると思いますが、助成の流れは公益法人へ移りつつあります。これは芸団協自身もやむを得ないと考えているようで、「実演芸術の将来ビジョン2010」では、公益法人格を条件に新たな団体助成(年間事業総合評価プログラム)や、赤字補填ではない公演助成(単位事業評価プログラム)を提言しました。年間事業総合評価プログラムの一環として劇場・音楽堂への助成拡充も求め、文化庁は提言どおり2010年度に「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」、2011年度に「トップレベルの舞台芸術創造事業助成金」を創設しました。

 芸術文化への助成は拡充したいが、従来の公演助成が頭打ちになると思われる状況では、若手への支援として劇場・音楽堂を経由した助成を増やすしかありません。劇場法(仮称)と助成制度は本来異なるものですが、助成の根拠法として劇場法(仮称)制定が急がれているわけです。助成制度がその思惑どおり進んでいるのも、文化庁と推進派で意識合わせができているためと思われます。推進派にとっては、劇場法(仮称)の波及効果をうまく利用したいのだと思いますが、この部分が議論を複雑にしているのも事実です。

(2011年9月15日)

おすすめの1冊

『公共劇場の10年―舞台芸術・演劇の公共性の現在と未来』 伊藤裕夫+松井憲太郎+小林真理編
美学出版
2010年

公共劇場の活動が本格化した90年代後半からの動きを概観し、今後のあるべき姿を考える。劇場法(仮称)への論考、動きをまとめた資料を収録。

参考リンク

劇場法(仮称)入門 目次

1
劇場法(仮称)とは
2
これまでの経緯
— 劇場法(仮)の2つの側面
3
現状の課題
4
今後の展望
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