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アートの世界のファンドレイジング



 アートNPOのファンドレイジングについて考えてみましょう。

 貧困、環境破壊、災害、高齢化などの社会的課題が山積しているなかで、とくに「困っている人」のいないアートの世界での寄付集めは難しいという声を聞いたことがあります。はたしてそうなのでしょうか。

 NPOは社会の課題を解決する人たちだといわれています。それは言い換えると「よりよい社会をつくる人たち」です。よりよい社会をつくるには、いまある社会問題を解決する、いまよりもっと皆が人間として豊かに生きられるようにする、という2つのアプローチがあると思います。アートNPOの多くは後者に属するのだと思います。どちらのアプローチに、より共感するかは人それぞれです。その選択肢に入っていれば、アート活動への支援を選ぶ人も出てきます。大事なのは、「選択肢に入ること」ではないでしょうか。

 そのために必要なポイントは3つあります。

1.言語化して支援を募ること

 すばらしいアートに出会って感動しない人はいません。ただ、前回書いたように、それは共感のレベルであり、それを支援行動に結びつけるような論理的な解釈を提供しないとなりません。こういうすばらしいアートが振興するにはなにが必要なのか、未来に継承されるにはなにをすべきなのか、そういうことをきちんと伝えなくてはなりません。

2.参加型のメニューにすること

 多くの人にとって、アートの世界とのかかわり方は優れたアーティストの提供するものを鑑賞することだと思います。もし、それを提供するのがアートNPOだとしても、団体との接点はありません。それでは、鑑賞のためのお金は払っても寄付をしようとは思いいたらないでしょう。アートNPOは、若いアーティストを皆で育てる、イベントの運営を手伝ってもらう、研究会に参加できるといった参加型のメニューを用意して、一般の人をアートNPOの活動に巻き込む仕掛けをつくりながらファンドレイジングすることが必要です。

3.寄付者を楽しませること

 寄付者を楽しませるメニューを用意するのはアートNPOが得意とするところです。コンサートのリハーサル見学や奏者との交流会、アートをモチーフにした寄付付き商品の販売、各種イベントなど、楽しさとステータス感をもたらすメニューがあるでしょう。人は楽しかったことを共有する仲間がほしいものです。寄付者が「楽しかった」と語ってくれることで、新しい寄付者が生まれることにもなります。

 こうした点をふまえて、アートNPOらしいファンドレイジングが実践できるはずです。

最後に

 この連載の最初に、NPOにとって、ファンドレイジングとは単に活動資金を集めることではないと書きました。NPOの活動の本質は、団体が単独で社会の問題解決に取り組むことではなく、その活動を通じて社会的な課題を人々に知らせ、理解してもらい、その解決への参加者を増やして社会をよりよくしていくこと。寄付を募る過程で、団体と人々がつながり、支援の輪が広がることで問題解決が促進する、と書きました。

 一方、寄付者にとっては、寄付をすることは自分自身が動いて社会を変えたり、社会のニーズに直接応えられなくても、確実に行動してくれる誰かに「思い」と「お金」を託す未来への投資だといえます。寄付という行為による社会参加と自己実現、自分の善意が生み出した成功体験の喜びは、人間が生まれながらに持っている利他の精神を満たして、幸福感をもたらすものでもあります。

 ファンドレイジングは、人々のフィランソロピー精神の架け橋となるものです。ファンレイジングに取り組む人たちが誇りをもって活動して、人々に幸せと満足をもたらすことを祈念して、この連載の締めくくりとします。

(2012年4月15日)

ファンドレイジング入門 目次

1
さあ、はじめようファンドレイジング!
2
日本に寄付文化はない!?
3
日本の寄付に必要な5つのこと
4
ファンドレイジングの5つのポイント
5
アートの世界のファンドレイジング
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