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芸術助成をめぐる問題点

助成する側の問題点はどこにあるか?

 日本の芸術助成プログラムは、少数の例外はありますが、「【1】公募して集まった申請書を【2】そのまま選考委員会に丸投げし【3】選ばれた事業の赤字の一部に対して【4】助成金を交付して【5】それで終わり」というものがほとんどです。

 しかし、前にも言いましたように、大事なのは助成の目的を達することにあるわけですから、プログラムそのものはもっと自由に、「成果重視」で考えればよいはずです。

 たとえば【1】です。日本ではどうも助成=公募でなくてはならないと思われているようで、実際新しい公益法人の認定の際にも、「公募していなければ公益活動とは認めない」という「指導」をした担当官がいたそうです。しかしこれは誤りです。公募は、よい助成先を採択していくためのひとつの選択肢でしかありません。公募にだってメリットもあればデメリットもあるのです(それが何かは、ぜひ皆さんで考えてみてください)。

 【2】はもっと問題です。「何を選ぶか」はもちろん大切ですが、その前の「何をねらって」「どういう方法で」助成するかというところが抜け落ちているのです。これが助成プログラムという部分で、ここを担うのがプログラム・オフィサーだということは、第2回でお話ししました。つまり日本の助成機関にプログラム・オフィサー(呼び方はどうでもよいのですが、要するに専門スタッフ)があまり配置されていないことが問題だといえます。プログラムの意図が明確でないと、呼ばれてやって来た選考委員も「自分の解釈」「自分の基準」で選ぶしかなくなります。まして各芸術分野での選考委員は(芸術賞の選考委員も含めて)どこも似かよった顔ぶれになりがちですから、助成先も似かよったものになってしまいかねません。

 【3】も実は重要な問題です。日本の芸術助成は、事業(公演や展覧会など)に対する助成ばかりなのです。欧米にあるような運営助成、つまり芸術団体などの活動全体に対して自由度の高い助成金を出すケースは非常にまれです。また事業に対して助成するといっても、出るのは赤字の一部を補填する額にすぎません。いくつかの助成を組み合わせて損をぜんぶカバーできればよいですが、助成機関も少ないですから、なかなかそうはいきません。事務所の経費や人件費など、芸術活動を維持していくのに必要な経費も、こういった助成からは充当できません。つまり、事業助成ばかりの現状は、芸術団体に対して、「できないことを強いている」ことになりかねないのです。1996年に文化庁が開始した「アーツプラン21」というプログラムは、実質的に運営助成(それも複数年の)に近いものだったので芸術団体からの期待も高かったのですが、いつの間にかもとの単年度事業助成に戻ってしまいました。

 【4】についてもいろいろ改善の余地があります。たとえば「お金以外の助成」も有効である場合があるでしょう。場所や機会を提供するのもよいでしょうし、そんな大げさなことでなくても、助成金を口座に振り込むだけでなく、ちょっとしたアドバイスや人の紹介を添えるだけで、助成の効果を高めることは少なくないはずです。それを可能にするのは、助成先とのよいコミュニケーションです。【4】についてはもうひとつ、助成金が「後払い」になっているところが文化庁を始めまだまだ多いのも問題です。その気になりさえすれば、改善はそう困難なことではないはずですが。

 最後の【5】についていうと、助成金を出しっぱなしにするのではなく、きちんと成果を検証して、プログラムの改善や外部への説明に役立てることが大切なのに、それが行なわれていない場合が、日本ではほとんどなのです。いわゆる「評価」の問題ですが、文化予算への昨今の風当たりの強さからみても、今後これは重要な課題になっていくことでしょう。芸術助成における「成果」とは何かという難題や、プログラム・オフィサーの職能ともかかわってくる話でもあります。

 ここまで5つのポイントをあげましたが、これらは私の財団でも長いあいだ考え、取り組んできた問題点です。しかし、まだまだ「完成形」には道なかばです。もう少し官民の助成機関どうしがノウハウを交換し合い、プログラムの質を競争しあうようになると、全体のレベルの底上げにもつながるのではないかと思います。

助成を受ける側のみなさんへ最後に

 さて私の話もこのへんでそろそろ終わりにしたいと思いますが、第1回の最初で、助成を受ける側のみなさんに、「助成とは何か」について、また「助成を受ける意味」についてぜひ考えてみてくださいとお話ししました。ここまでの内容からも、その手がかりを見つけることができたのではないかと思いますが、最後にふたつの点を確認しておきたいと思います。

 ひとつめは、助成の出し手と受け手は、目的を共有するパートナーだということです。そのように考えるだけで、申請するときの姿勢も変わってくるでしょう。「われわれはこんなに困っています」というのも時には効果的かもしれませんが、「このようにしてあなたの目的達成に貢献できます」みたいな姿勢のほうが、パートナーとしてはやはり魅力的です。

 また、助成機関に対して「このようにすると、もっとよいプログラムになるのではないか」といったことがあれば、どしどし提案してみましょう。もし「とてもそんなことを言う雰囲気にない」というなら、これは助成する側の反省材料だと思います。

 確認のふたつめは、助成を受けるということは、それ相応の責任を伴うということです。面倒な申請手続、報告書類の数々にうんざりすることもあるでしょうが、助成機関は助成機関で、社会に対する説明責任を負っています。決められた手続を軽んじることは、パートナーの責任の履行を妨げ、苦しい立場に立たせることだということを理解するべきでしょう(確かにあまり煩雑な手続を、助成の受け手に課すのはどうかと私も思いますが)。

 とくに芸術団体がおろそかにしがちなのは経理的な面です。おそらく多くの助成機関では、芸術団体の会計に関する開示情報には、じゅうぶんな信頼を置いていないでしょう(きちんとした団体も、もちろんあります)。この「会計不信」は、結局のところ、踏み込んだ芸術助成を躊躇させる原因になってしまいます。日本で運営助成が普及しない原因のひとつもここにあるのではないでしょうか(逆に運営助成がないから開示可能な会計にならないというのも事実かもしれませんが)。

 以上いろいろお話しましたが、助成の出し手と受け手がお互いに信頼しあえるパートナーとなり、創造性にあふれた助成プログラムがたくさん誕生していくことを、ぜひ期待したいと思います。

(2010年4月15日)

芸術文化助成入門 目次

1
助成とは何か?
2
助成プログラムをめぐって
3
だれがどんな助成をしているか?
4
芸術助成をめぐる問題点
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