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生きた生活から表現は生まれる─アートマネジメントと向き合うポリシー



今私は、生後2カ月の赤ちゃんを抱っこしながらこのコラムを完成させるべくパソコンに向かっています。居心地の悪さからか、赤子は途中でなんども泣き、その都度机から立ち上がりあやして、機嫌が戻ったところで執筆再開。途切れる集中力と思考になんどもエンジンをかけながら進めていくと、もう長男の保育園の迎えの時間がきてしまう。限られた時間の中で赤子の反応から要求を読み解き対応して、次の時間につなげること。わが子のことを考えているうちに、子どもの取り巻く社会のしくみについて調べ始め、気がつくと自分のことを考えてしまっていること。これらは私自身の仕事ととてもよく似ていることだなと日々感じています。

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出産後すぐの仕事となった「Tokyo Art Research Lab 思考と技術と対話の学校」(2016年度基礎3プログラム)での様子。
撮影:加藤健 写真提供:アーツカウンシル東京

私は「アートマネージャー」として以下の3つを軸に活動をしています(活動開始順)。

その1:
アーティスト・コレクティヴ「Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)のメンバーとして国内外で作品を制作し発表。

その2:
個人事務所「一本木プロダクション」を立ち上げ、アーティストの作品制作のプロセスから作品販売までを継続的または部分的にマネジメント/サポート。

その3:
名古屋の港まちで活動するまちづくり団体が母体となったアートプログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya[MAT, Nagoya]」の共同ディレクター(現在は出産・育児に伴い一旦お休み中)。

全国各地で“アートプロジェクト”が展開されている今日において、「アートマネジメント/アートマネージャー」は耳慣れた言葉になりました。私が初めて「アートマネジメント」という言葉を知ったのは2005年。関西の美術大学で写真を学び作品制作をする中で、大学の卒業後に自分が「アーティスト」として生きていくことにリアリティを感じることができませんでした。そしてそもそも「アーティスト」の社会的な立場ってあるの? という漠然とした疑問から、アーティストの制作や生活環境について興味を持ち「アートマネジメント」を学ぶことのできる大学院へと進みました。大学院では日本の文化制度や政策には触れられたものの、アーティストがどのような環境において制作し、生業を得ていくのかやっぱりわかりませんでした。それで「自分事」として考える現場を持ちたいと思うようになり「Nadegata Instant party」(以下、ナデガタ)の結成へとつながっていきます。

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右:中崎透、中央:野田智子(+当時1歳半の息子)、左:山城大督。
これまで10県以上の場所で滞在制作を行ってきた。その都度子どもも連れ立って現場入りするため、滞在先では子どもの遊び場所なども必ず確認する。

今年で結成11年目となるナデガタは、アーティストの中崎透と山城大督とともに3人で活動をしています。作品のアイディアは基本的に2人が出し、コンセプトや制作のプロセス、アウトプットといったアイディアを大きく膨らませていく部分は3人で行っています。

これまで20ものプロジェクト型の作品を全国各地で発表してきました。フィールドとなるのは、住宅街やまちの中、美術館のときもあれば、レジャー施設、廃墟、公民館など実にさまざまです。毎回その場所のシチュエーションに合わせた構造でプロジェクトを立ち上げ、コラボレーターや不特定多数の人とともに制作することもあれば、3人だけで制作するなどプロジェクト毎によってかかわる人数が変化します。

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Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)《24 OUR TELEVISION》2010
国際芸術センター青森(ACAC)のレジデンスプログラムにて、24時間だけ開局するインターネットテレビ局を制作。100名を越える市民スタッフとともに地元メディアをも巻込んだ本作は、ギャラリーに集合スタジオを設営し、カメラマン、スイッチャー、AD、司会、演出、そのほとんどを素人が務めた。それは生放送であると同時に24時間のライブパフォーマンスでもあったといえる。
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Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)《ONE CUP STORY》2012
撮影:内藤雅子
「水と土の芸術祭 2012」にて、新潟市内にある旧保育園の園内に市民とともに「陶芸窯」を制作。展覧会会期中は窯をつくる過程で起こった出来事を「物語」に再編集し、その物語を映像や展示を通して体験する“ストーリーハウス”を展開した。会期中は窯焚きやサポーターによる作陶体験も開催。現在も『礎窯』として残り、サポーターの手によって運営が続けられている。
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Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)《Well, Come On Stage!》2015
撮影:浅野豪
「瀬戸内国際芸術祭 2105」にて豊島を舞台に制作した作品。1年ほど豊島に通いリサーチや島民へのインタビューを重ね、春・夏はイベントを、秋には舞台公演「てしましましま、あしがらがら」を企画した。公演は、豊島にそびえたつ檀山の頂上に特設会場を設け開催された。島民が役者となり、演技や唄、踊り、映像などが上演され、お客さんも移動しながら観る展開となった。

私の役割としては、プロジェクトの進行管理、かかわる人々への連絡、お金の管理、広報関係といった部分が主ですが、一番大事なのは二人の話を“よく聞くこと”だと思っています。そして多くの投げかけや疑問をぶつける。おもしろいときはおもしろい! と言う(これも結構大事)。結成当時はアーティスト特有の共通感覚や言語にやきもきすることもありましたが、彼らが何をしたいか、その実現には何が必要で私がどう動いたらよいか、私にとってリアリティのあることか、そしてその作品が社会のどことつながっているのか考えてみる。また一方で、当事者としてプロジェクトに没頭しながらも、客観的に見つめる視点を持つことも大切にしてきたように思います。どこか他人事としてプロジェクト全貌を捉えること。彼らの振る舞いをある距離を保って眺めてみること。そうすることによって、作品が見る人にどう伝わるか、作品の拠り所がどこにあるのか見えてくる。「自分事」と「他人事」を何度も行き来する視点をもちながら、イマジネーションを最大限に働かせ続けることで彼らと対等にプロジェクトを遂行してきました。アイディアが出る瞬間、プロジェクトが動き始める瞬間、なぜだかわからないけど感動してしまう瞬間、その時々に立ち合うことで「作品」の生まれる現場を目の当たりにしてきました。

100年後に「残す」を考える

ナデガタの作品の核となるのは、つくり上げていくプロセスの状況、巻き起こる出来事、仕組みといった「無形」のものです。ある設定と時間軸を持つプロジェクト型の作品をどう価値づけし、どう残していくのかは、活動当初から意識してきました。

東京都現代美術館に収蔵されている《カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW》は、公募にて集まった団塊世代16名により結成されたグループ『だんかいJAPAN合唱団』とともに制作しました。彼らが育った戦後日本の様子や、個人のエピソードが彼ら自身の口から語られるモニターとインスタレーションを巡りながら観賞する作品です。

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カントリーロードショー展示風景
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)《カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW》2012
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カントリーロードショー映像キャプチャー
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)《カントリー・ロード・ショー/COUNTRY ROAD SHOW》2012

私たちはこのプロジェクトの「痕跡=エビデンス 記録=ドキュメント 象徴=シンボル」を抽出することで作品が残ると考えました。痕跡は中崎が描いたインスタレーションのドローイング、記録は映像メディア、象徴として映像の中で彼らが被っているヘルメット、この3点それぞれを「プロジェクト・ピース」と呼び、これら3点が一式揃うことでナデガタにおける「プロジェクト作品」が成立していると位置づけました。美術館への収蔵をきっかけに、作品が常に公共性を帯びたものへと変わっていく。作品を制作し発表したその後に、作品がどう残っていくのか、作品の行く末を考えることについて大きなヒントを得る機会となりました。

価値をつくりだすプロダクションの可能性

2013年、長男の出産と「あいちトリエンナーレ」への参加を機に、東京から愛知県は名古屋市へと移り住みました。子どもが生まれたことで、この先10年、20年をどこでどう生きていくか問われる機会が増え、それと同時に自分が何者であるかということと向き合うようになりました。そこで、自分自身がナデガタで取り組んできたこと、これまで経験したことをさらに広げるため、ジャンルを問わず多様なパートナーを恊働できる試みとして個人事務所『一本木プロダクション』を構えることにしました。

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田村友一郎《世話料理鱸包丁》2014 ミクストメディア、インスタレーション
田村友一郎が「メディアシティ・ソウル2014」で発表した《世話料理鱸包丁》に登場する包丁の制作、日本の統治時代に高等裁判所として建設された現・ソウル市美術館の当時の様子がうかがえる裁判所の写真の手配、作品の美術館への収蔵といった部分を主に担当した。
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山城大督《TALKING LIGHTS/トーキング・ライツ》2016ミクストメディア、インスタレーション 14分
撮影=永禮 賢 写真提供=森美術館
山城大督が「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」で発表した 《TALKING LIGHTS/トーキング・ライツ》の制作マネジメントを担当。作品の構想段階から話を聞き続け、新作の試みを理解し、制作に伴う実験場所探し、音源収録、搬入の立ち会いなどなど、作品が完成するまでのプロセスをともにした。

アーティストとの対話はいつもほどよい緊張感を伴います。社会に向けられた彼らのリアリティある鋭い視点は、見えないものを可視化させたり、未来や過去、自分と異なる他者と結びつけられる力を持っています。その力によって、価値観が揺さぶられる。私はアートによって社会は変えられるとは思っていないけれど、アーティストが持つ視点が現代社会を生き抜くヒントを持っていると信じています。彼らとの仕事を通じて、アートマネージャーとは、時に交通整理役として、時に作品の価値を伝えていく伝達者として、時に作品を思考していくパートナーとして存在しうることがわかったのです。今はアーティストとの仕事が多いけれど、今後は異業種(例えば古物商・出版・観光など)の人々と恊働することで何かおもしろい風景を立ち上げることができないか模索していきたいと思っています。

新しい“アートとまち”の関係づくり

名古屋港エリアで活動しているまちづくり団体「港まちづくり協議会」が母体となり、2015年10月よりスタートしたアートプログラム「Minatomachi Art Table, Nagoya[MAT, Nagoya]」。アートコーディネーターの吉田有里さんとアーティストの青田真也さんと共に共同ディレクターとして、プログラムの立ち上げから参画しています。

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MAT, Nagoyaロゴマーク
このプログラムはアートがまちのテーブル(議論したり、何かと出会ったり、考えるきっかけ)になるよう、「Minatomachi Art Table, Nagoya」と名づけられた。机を想起させるロゴデザインやWebサイトなどのVIは、名古屋で活動するデザインコレクティヴ「Sundwich」によるもの。

このプログラムの資金源は、まちづくりのための活性化補助金です。文化予算ではない公金をアートのプログラムに使うのですから自然とズレや課題が出てくるのは当然のこと。そこにはていねいな説明と、わかりやすさが求められます。MAT, Nagoyaでは「アートそのものは、まちを変えるためには存在していません … アーティストやアートがもたらす気づきや想像、アートそのものの存在をまちが受け入れることで、異なった価値観や他者を受け入れてきたこの港まちの多様性が、さらに広がる」(ミッションステートメントより)と謳い、アートが手を伸ばす距離に存在していることでもたらされる変化や関係性によって、まちがより豊かになっていくのではないかと考えています。キュレーターやアーティストとつくり上げる展覧会シリーズ、空き家をまちの資源と捉え活用していく試み、アートやデザインの視点を持ち全国で活動するゲストを招きこれからの「まち」を考えていくトークイベントなど、今後もさまざまなプロジェクトを継続的に行っていきますので、ぜひご期待ください。

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MAT, Nagoyaが拠点とする「港まちポットラックビル」外観。
撮影:岡村靖子 写真提供:Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]
ここで働く港まちづくり協議会の事務局スタッフ、MAT, Nagoyaのプログラムディレクターらは20代後半〜40代と比較的若く、アート・まちづくりの専門家、アーティスト、グラフィックデザイナーといった業種が入り交じる。ディレクター陣の中にアーティストが参画しているのもこのプログラムの大きな特徴といえるだろう。
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「ほったまるびより-O JUNと吉開菜央 Part1」展覧会風景
撮影:冨田了平 写真提供:Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]
愛知県美術館の館長である島敦彦氏をゲストキュレーターにお招きし、画家のO JUNとダンサーで映像作家の吉開菜央の2人展を開催。本年3/3〜5には、同エリア内にある旧・名古屋税関港寮を舞台にPart2の企画(滞在制作/パフォーマンス公演)が開催される。
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記憶のはがし方プロジェクト(阿部大介/鷹野健)「みなとのきおく memory of the port town」ギャラリーツアーの様子
写真提供:Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya]
アーティストの渡辺英司氏を監修に迎え、旧手芸店を改装した「ボタンギャラリー」。全面ガラス戸であるためウィンドウギャラリーとして運用している。作業しているとまちの人が声をかけてくることも。

このコラムでは2つのことを私なりに考えてきました。一つはアーティストと近い立場をとりながらアートマネージャーとしてアーティストとどう向き合ってきたのか。ナデガタを始めた頃は、アーティストではない自分の仕事を説明することを、とてももどかしく感じていました。「アートマネージャー」と名乗れるようになったのはここ数年のこと。これまでを振り返ってみると、すべてのプロジェクトの「当事者」として、ある部分勘違いをしながら前に進んできました。作品に対して自分なりの批評性をもち、作品が現代社会のどこと紐づけられていくのか筋道をたてていく、そしていかに自分事として引き寄せて考えられるか。これらがこの先押し寄せるであろう行政主導型の芸術文化プログラムを、アートマネージャーとしてサバイブしていく心得となるのではないかと思っています。そのためには、生活と社会はすべて地続きでつながっていることを忘れず、子どもたちに多くを学びながら、地に足を着けて自分自身の審美眼を肥やしていきたいと思うのです。これがもうひとつの、出産・子育てと生活環境を変えながらもアートマネジメントに向き合ってきた私なりの作法といえます。

(2017年2月13日)

今後の予定

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バトンタッチメッセージ

毎月届く原稿とウェブサイトの更新が楽しみな半年間でした。まずはこのような機会をいただいたネットTAM事務局の皆さま、お忙しい中で読み応えのある原稿を寄せてくださった皆さまに御礼申し上げます。

企画や事務局としてかかわらせていただいているTokyo Art Research Lab「思考と技術と対話の学校」などでも常々感じるのですが、立場にかかわらず、豊かな創造の現場にかかわってきた方々が見聞きしてきたこと、考えてきたこと、そしてこれからの展望を「ことば」として共有いただけることは、とても贅沢なことです。

5人の皆さまに共通していたのは、アートにかかわり続けていくことへの信念、必ずしも「公立=公共」だけではない公共性への視座、自らがかかわってきた取り組みをていねいに言語化し、それを踏まえてさらなる「これからの」実践に向けた積極的な姿勢でした。

これらはありがたいことに、ノマドプロダクションのメンバーや、普段一緒に仕事に取り組む方々との会話の中でも見えてくる、それぞれの興味や問題意識とリンクするものばかりでした。

目の前の仕事に追われがちな日々ではありますが、「やるべきこと」「やりたいこと」「できること」を見定めながら、これからの生活と表現をリアルに考える場づくりを続けていきたい思いです。連載への感想、場づくりにご興味のある方は、 までお気軽にご連絡ください。

(橋本 誠│アートプロデューサー/一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

お知らせ

  • Tokyo Art Reseach Lab のウェブサイトがリニューアルしました。「図書室」のページからは、これまでに制作した成果物(記録冊子のPDFなど)をご覧いただけます。
    http://tarl.jp/
  • Tokyo Art Reseach Lab の一環として、3331 Arts Chiyoda 3階のレクチャールーム+アーカイブセンター「ROOM302」に収蔵しているアートプロジェクト等の資料を検索できるウェブサイト「SEARCH302」を公開いたしました。
    http://www.art-society.com/search_302/
  • 取材記事「公共空間におけるアートプロジェクトの可能性を見出し、表現者を育ててきた〈おおさかカンヴァス推進事業〉」をprojectart.jpにて公開中です。
    http://projectart.jp/?p=2873
  • ノマドプロダクションやメンバーの活動情報をメールニュースにて配信しています。ぜひご登録ください。
    http://nomadpro.jp/?page_id=846

これからの生活と表現 目次

1
芸術文化プログラム急増の時代に身を置きながら
2
ずっと働いているようで、ずっと遊んでいるような生き方
3
同時に複数の場所と時間を生きる
4
生活を微視的に見つめる視線、の先に広がる都市空間
5
芸術と社会をつなぐ~2020年の先にある文化行政の現場とは?
6
生きた生活から表現は生まれる─アートマネジメントと向き合うポリシー
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