ネットTAM


4

「アーツカウンシル」のプログラムオフィサーとして取り組んできたこと



東京都が都知事の附属機関である東京芸術文化評議会からの提言を受け、「アーツカウンシル」を(公財)東京都歴史文化財団内に設置したのは、2012年4月のことです。国レベルでは(独法)日本芸術文化振興会における日本版アーツカウンシルの取り組みが先行していましたが、地方自治体としては初めてのことでした。私はそれまで、人口14万人の武蔵野市や90万人の世田谷区、150万人の福岡市の自治体文化財団で働いてきていましたが、一概にはいえないものの、人口規模によって財団の発想や事業規模が異なると感じていました。次はより規模の大きな自治体へ…と漠然と考えていたときに、アーツカウンシル東京準備機構でプログラムオフィサーが公募されていることを知り、ご縁あって立ち上げに携わることになりました。

プログラムオフィサー(以下、PO)とは「助成金の配分機関において、配分にかかわる専門的な審査や評価の業務を行う職階のこと」です*1。2011年まで東京都生活文化局文化振興課で実施されていた助成事業(現在の「東京芸術文化創造発信助成」)が、準備機構の発足と同時にアーツカウンシル東京に移管され、外部審査会ではなく4名のPOによる審査(および有識者を交えた組織内部における一連の審査)がスタートしました。現在はPOも11名に増えましたが、参照できる先行例のなかった当時、公的な立場で芸術活動を評価し公金を配分するという仕事は、駆け出しのPOにとって大変な重圧であり、その重みは6年目を迎えた今も薄れることはありません。

*1『プログラム・オフィサー 助成金配分と社会的価値の創出』(学陽書房、2007年)より

発足当初は墨田区両国の小さなビルの一室で、それはひっそりと、PD(プログラムディレクター)やPOが協力しながら審査業務や助成制度の改訂に取り組んでいました。その後、2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されることが決まり、2015年に同じく東京都歴史文化財団で様々な文化事業を実施していた「東京文化発信プロジェクト室」と統合されることになりました。あれよあれよという間に職員数60名を超える大所帯となり、事務所も靖国神社の隣の広く新しいビルに移転するなど、この数年の間に起きた環境変化は目まぐるしいものがあります。

ところで、今回のコラムの大テーマは、「イベントではなくインフラとしてのアート活動のために」です。インフラとしてのアート活動と聞いて私が思い浮かべるのは、例えば劇場やフェスティバルが「新しい広場」「世界への窓」として機能することや、舞台芸術の社会的認知度が向上し強い影響力を持つこと、またアーティストや制作者自身がそれぞれ社会的役割を担っているという意識の下に活動することなどです。当然ながら、アーツカウンシルのような助成機関がクリエーションへの支援や人材育成、創造環境整備といった、イベントを実施する以前の下支えに取り組むことでもあるでしょう。

自治体文化財団でのこれまでの経験で、どのような文化イベントを行うにもアーティストの存在が必要不可欠なのに、事業の要である彼らへのサポートや権利保護といった視点に欠けていると思わざるをえない場面を幾度か見てきました。一方で、表向きそう謳っていなくても、公的な組織だからこそ可能なアーティストの支援に事業を通じて取り組んでいる財団や劇場もあります。設置自治体の文化芸術振興に対する理念・方針の有無や、その時々の組織幹部のマインドによって変わってくるように思います。

アーツカウンシル東京の助成プログラム

では、アーツカウンシル東京の助成プログラム「東京芸術文化創造発信助成」(以下、創造発信助成)について、これまでの取り組みを少しご紹介させてください。このプログラムは、東京を拠点とするアーティストによる多様な創造活動や、中間支援団体の活動を支援するものです。国による芸術団体への直接助成に比べ、創造発信助成の予算規模は小さく上限額も決まっていることから、私が担当する演劇分野では若手による独創的な表現や国際性のある活動を優先的に支援するという方針を掲げてきました。制度面では、関係者が協力し合い、それまでの年1回公募から年2回公募にして申請機会を増やし、年度を跨って申請できるようにしました(第2期公募は10月1日から翌年9月末までに実施する活動が対象となります)。また、それまで公演などの創造活動のみであった助成対象を、人材育成や情報交流といった創造環境整備にも拡大してきました(ちなみに本公演でないワークインプログレス的なものも、なんらかの公開が伴えば対象になります)。さらに2013年からは、活動単位での助成である「単年助成プログラム」に加えて、最長3年間、リサーチも含め継続的にサポートする「長期助成プログラム」も開始しています。いずれも事業費助成であり、上限額の見直しや補助率の引き上げなどの課題は残っていますが、少しずつ制度を改訂してきた結果、演劇分野においては若手の創作状況を一定程度向上させることに貢献しているのではないかと考えています。ただし、助成プログラム自体の効果測定や評価はこれからですので、あくまでも個人的な見解です。

さらに個人的意見として、改訂を続けてきた現行制度をあらためて見つめたとき、そこでPOが一定の役割を果たしているとしても、「赤字になるから補助する」という繰り返しに陥ってはいないだろうかという問いも浮かんできます。助成プログラムの目的をより明確に政策に位置づけることや、例えばセクター全体が抱える課題解決のために予算を使うことがより重要なのではないか、と思いもします。課題を正確に捉え、解決手法や必要経費を試算することは容易なことではありませんが、調査研究を継続することでその糸口は見つかるような気がしています。

art-infrastructure_4_penino.jpg
演劇分野で最初の創造発信助成「長期助成プログラム」の対象となった「庭劇団ペニノ『新たなはこぶねプロジェクト』より『地獄谷温泉 無明ノ宿』」(撮影:杉能信介)
art-infrastructure_4_scot.jpg
SCOT主宰・鈴木忠志氏による人材育成事業「演劇人のための鈴木教室」。平成25年度から27年度まで3年連続で創造発信助成(単年助成プログラム)の対象となり、100名近くの若手演劇人が参加した。(会場:吉祥寺シアター)
(提供:SCOT)

アーツアカデミー調査員制度について

さて、アーツカウンシル東京の助成スキームは活動単位・プロジェクト単位ではありますが、審査においては申請された企画内容のみを見させていただいているわけではありません。演劇分野においては、申請者がこれまでどのような活動をしてこられたのか、その間どのような変化や発展があり、どのような必然で今回の企画につながっているのかというプロセスを、できるだけ把握させていただくように努めています。

そのため、多様な芸術活動が密集している東京で少しでも多くのアーティストの活動をフォローするために、アーツカウンシル東京では組織の発足当初から「アーツアカデミー調査研究員」が活躍しています。若手の研究者や制作者・アーティストに調査業務を委嘱し、助成対象活動をはじめとする芸術活動を幅広く実地調査してもらい、レポートや報告会を通してPOと情報共有してもらっています。調査対象は演劇分野だけでなく、音楽、舞踊、美術、映像、伝統芸能、複合分野に渡ります。この制度は公的支援のあり方を考え、芸術活動を評価できる人材の育成事業でもあるのですが、私が2012年から2016年までに制度担当者として協働した調査研究員15名は今、地域版アーツカウンシルや官民の支援機関、シンクタンク、大学や劇場などで活躍しており、大変頼もしく思っています。

27624621-80a6d7e0-5c1c-11e7-9047-44f378e70ec9.jpg
アーツアカデミー調査員制度の研修会
(独法)日本芸術文化振興会基金部を訪問し、助成プログラムの概要や審査について説明を受ける。

「芸術文化による社会支援助成」と障害のある人々のパフォーミング・アーツ

さらに、2015年から新たに「芸術文化による社会支援助成」(以下、社会支援助成)がスタートしました。これは、社会包摂や社会課題に向き合う芸術活動に特化した助成プログラムで、障害のある人々や高齢者、子どもや在住外国人が主体的にかかわる表現活動を主な対象としたものです。これまでに5回公募していますが、パラリンピックを控えていることもあってか、申請数においても採択案件においても、障害のある人々に関連する活動が多くを占めています。

そこで知ったのは、アール・ブリュット等美術分野の隆盛に比べて、パフォーミング・アーツは現状として実践者が限られており、横のつながりが十分ではないということでした。このままでは2020年に向けて活動の拡がりが生まれないのではないかという問題意識から、社会支援助成と創造発信助成で支援させていただいている関係団体に呼びかけ、昨年5月に「障害とパフォーミング・アーツ研究会」を発足しました。これまで6回開催し、団体間の情報交換やネットワーキング、課題の共有や助成プログラムについての意見交換、海外事例の研究などを行っています。この後はいよいよ、障害のあるアーティストや支援者の育成や、活動の基盤整備なども視野に入れたプロジェクトを、具体的に検討していく予定です。せっかくの2020年を実りあるものにするため、他の支援団体とも連携しながら進めていきたいと考えています。

art-infrastructure_4_performance.jpg
障害とパフォーミング・アーツ研究会
吉野さつき氏(愛知大学文学部准教授)に進行役を依頼し、12団体の代表者に加え毎回多数のオブザーバーが参加している。

長くなりましたが、私は社会に問いを投げかけるような芸術活動の普及や、その活動を担うアーティストを支えることに意義を感じています。原点は20代の時に2年間過ごした、フィリピン教育演劇協会(PETA)での経験です。PETAは1967年、マルコス独裁政権下で設立され、演劇を通した民主化運動や360年間続いた植民地時代に喪失したアイデンティティの回復、演劇ワークショップを通じた社会的弱者のエンパワーメントなどに取り組んできた劇団です。東京でのアマチュア劇団時代、PETAのファシリテーターを招いてアウグスト・ボワールの「被抑圧者の演劇」を体験したことが大きな転機となり、若さの勢いでPETAインターンとなりました。フィリピンは国民の9割近くが敬虔なカトリック教徒で、家族愛や隣人愛を尊ぶ国であると同時に、ここでは書ききれませんが圧倒的な貧困からくる深刻な問題の数々がありました。その闇に深く分け入り、フィリピン全土で演劇活動を展開していたPETAメンバーの姿は、今でも私を強く奮い立たせてくれます。

ちなみに、世界経済フォーラムが毎年発表する各国における「ジェンダー・ギャップ指数」(男女平等ランキング)において、フィリピンはアジア最高ランクを誇っています(2016年は144カ国中フィリピン8位、日本は111位)。ミドルクラス以上の女性の社会での活躍は目覚ましく、PETAでもWomen’s Theater ProgramやGender Awareness Workshopなどが盛んに行われていました。価値観を大転換させるような経験をフィリピンという国とPETAではさせてもらい、感謝しています。

最後に、橋本さん、植松さんに倣って、私もある方の言葉を紹介して終わりたいと思います。それは演出家ピーター・ブルックが、世田谷パブリックシアターの公演で観客の質問に答えて語ったという言葉です。

人間の命のかたちを見たことがあるか。誰もない。しかし、演劇を通して、命のかたちを見ることができる

プログラムオフィサーであると同時に、思想や信念、技術に裏打ちされた制作者でありたい。劇場での公演であれ、路上でのワークショップであれ、命のかたちが浮かび上がるような瞬間を一人でも多くの人々と分かち合えるよう、これからも自分のミッションを果たしていきたいと思います。

(2017年6月23日)

関連リンク

おすすめ!

次回執筆者

バトンタッチメッセージ

竹下さんは、今ではすっかり山口の人ですが、京都にも深い縁のある方です。京都の大学を卒業後、京都芸術センターでアーティスト・イン・レジデンスを担当、そして京都造形芸術大学舞台芸術研究センターでは舞台制作を行ってこられました。そして2008年のYCAM着任後は、それまでの京都でのご経験を生かしながら、YCAMオリジナル公演のプロデュースのほか、テクノロジーと身体の新しい関係を追求する研究開発プロジェクトとして「Reactor for Awareness in Motion」(通称RAM)などのディレクションを担当されています。特にRAMについては、そこで得られた成果をダンス以外の分野にも応用・展開して、人間の知覚、そしてコミュニケーションのあり方に再考を促すような取り組みを始めていらっしゃいます。科学やテクノロジーとアートが切り結ぶ新たな地平に何を見出しておられるのか、そんな話題を期待しています。

(橋本裕介│ロームシアター京都/KYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター)

イベントではなくインフラとしてのアート活動のために 目次

1
舞台芸術制作者の専門性
2
アートの源泉として夜
3
2030年を見据えるところから始まるアートマネジメント
4
「アーツカウンシル」のプログラムオフィサーとして取り組んできたこと
5
エクストリームな文化施設にできること
この記事をシェアする: