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からだをつかって考える



blanClassは横浜の住宅街にある小さなスペースを拠点に、芸術を発信している。毎週土曜日にワンナイトイベント&公開インタビューを続けて、もうすぐ3年。このイベントのことを当初「+night」と呼んでいたのだが、今年から「Live Art」と呼びかえることにした。それは毎週土曜日に起こる、極めて説明困難な事象を幾分わかりやすくしたいと願ったからだ。その模様は公式サイトから、ほぼ毎回ストリーミングで生放送、その後アーカイブとして一部を配信している。

9月のLive Artは、大久保あり、南雲由子、百瀬文、田中功起、4人のアーティストをお呼びする。いずれのイベントも、アーティストだけでなく参加者も一緒になって、文字通り「からだをつかって考える」企画。

お客さんが来場したときには、まだ作品はできあがっていないし、結果は作家が想定していたものから大幅に変わってしまうかもしれない。アーティストたちが用意しているのは、もはや「作品らしい作品」などではなくなっている。用意しているのは、考えるために必要な機会と、その仕掛けのようなもの…。

blanClassは、いつのまにか、さまざまな世代のアーティストたちが、作品として完成する一歩手前のアートワークを実験する場になってきた。彼ら、彼女らが示そうとしていることは、完成された答えとしての「作品」ではなく、未解決で不確定で未確認でさえあるような問題を発見し、それらを考えるためのツールのようなもの。

少し話しが逸れるかもしれないが、私は長いこと、アーティストが芸術の体験を「非日常」と位置づけることに抵抗を感じてきた。あるいは「日常≠非日常」という対立項が嫌いなのかもしれない。

なにも起こらない平凡な日々とか、そこにあるささやかな幸せとか、あの日から日常が一変したとか、校内暴力が吹き荒ぶ中学生活にも団らんのような場面に事欠かなかったとか、革命やイラン・イラク戦争を屈強に生き抜いたはずの少女がウィーンでの失恋で死にそうになってしまうとか(マルジャン・サトラピの映画「ペルセポリス」)、ナチスによる強制収容所にも人々を生に突き動かす価値が存在していたり(フランクル「夜と霧」)、それに類する例はいくらでもあるのだが、「on/off」のようには「日常」と「非日常」はスッキリした関係にない。それらは地続きに関係しあって、現実を不安定なものにしている。

個人の経験を超えて、とてつもなく大きなこと、いいかえると一つの事象に括られていても、その実、個々の経験が想像を超えて多様であるようなことが起こると、そこには数えきれないような「病い」が棲みついてしまうだろう。

でも日々の生活に変化を見出せなくなって、「なんにもない」と思ってしまうことがあるのだとしたら、それだって「病い」の一種かもしれない。

どちらにしたって、全体と細部の両方を見渡してしまう視点というものが存在しないものだから、結果、人々は近視眼になって、目に見えたり見えなかったり、さまざまな問題を抱えてしまう。

アートだって同じようなかたちで、さまざまなアーティストがさまざまな問題を抱えている。だからアートの領域だけが独占している問題が約束されているわけではない。アートの内と外みたいな、都合のいい図式は存在しなくて、やっぱり、そこは地続きに、いろいろなことごとが、複雑に絡みあっている。そもそもアートが開こうとしてきたフィールドは、国や民族や宗教や制度や歴史や形式やジャンルなど、無数の価値や常識が縛っている枠からはみだして、この世のすべての問題をぶち込んでも良いのが前提なのだから…。その上、私の目の前にも横たわっている現実さながらに、いつだって、いつまでだってアートは不安定な価値として変化をし続けている。

そういうツールとしてのアートを通して思考し、実践する場として、これからもblanClassを展開していきたい。というわけで、土曜日だけでなく、ほかの曜日にもいろいろなことを現在計画中。たとえばCAMPのシリーズ企画を月曜日に、秦雅則が1人で写真学校を水曜日に開校、月1回のペースで杉田敦と眞島竜男のレクチャーシリーズを金曜日に、などなど…。10月には3周年ということもあって、それらのプレイベントを金曜日の夜に企画している。また11月には東京造形大学のCSLABにステューデントナイトを出張、はじめての試みとして出演者を公募している。

blanClassを訪れるアーティストたちは世代を問わず、なにかこれまでにないことをチャレンジしています。それは私やスタッフのチャレンジでもあるのですが、なによりもお客様というか、共謀者というか、参加してくださる人々にとっての良い意味でのチャレンジであればと願っています。そしてblanClassが発信するものが、より多くの届くべき人々に届くように工夫を重ねていきたいと考えています。

(2012年8月20日)

今後の予定

  • 2012.9.1|クライミング
    大久保 あり [その壁を登るには、]
    climbing start 18:00
    video screening start 20:00
    クライミング体験 ¥1,400/学生 ¥1,200 観覧 ¥1,000/学生 ¥800
    ブランクラスの横の壁を登ります。クライミング=サヴァイヴァルの疑似体験を通して「目指すこと」・「克服すること」・「生き残ること」について考えてみる。(観覧でも疑似体験できます。)
    ※クライミング体験希望者は予約必須。定員10名。お問い合せ・ご予約は にて受付けます。(尚、体験には制限があります。詳細は、http://blanclass.com をご覧ください。)
  • 2012.9.8|ワークショップ
    南雲 由子[3分コンセプト+新作プラン発表]
    open 18:00 start 19:30
    ¥1,000/学生 ¥800
    3分+αのブレインストーミングで、作品の元になる「コンセプト」を立てるワークショップ。同じ方法で<対馬アートファンタジア>に向けて1週間、島にこもって作った作品プランも発表します。
  • 2012.9.15|参加型パフォーマンス
    百瀬 文 [定点観測]
    open 18:00 start 19:30
    ¥800/学生 ¥600
    【1.いくつかの質問が書かれた紙を渡しますので、それに回答を書いて下さい。
    2.その答えだけで構いませんので、それを読み上げて下さい。】
    ある質問に対してある人の答えがある。紡ぎだされた言葉は本来その人の持ち物のはずである。
    しかしここで放たれた言葉は、やがてあなたの体を離れた別の場所で、もうひとつの物語を立ち上がらせる。そのときその言葉は必ずしもあなたの持ち物とは言えなくなるのかもしれない。
  • 2012.9.29|コレクティブ・アクト、パーティシペイション
    田中 功起 [不安定なタスク #1, 懐中電灯を振りながら夜の街を歩く]
    open 18:00 start 19:30
    ¥1,200/学生 ¥1,000
    特殊な事態が生じ、一時的にひとが集まり、その状況に対処する。これはアートの文脈においても、普段の生活においても起きうることです。きっとblanClassで毎週末に起きているイベントの数々もそのようなことのひとつかもしません。
    今回、blanClassでのプロジェクトではこの特殊な状況における対処、反応、経験をすこしゆるやかな枠組み - いくつかの未成熟な、おぼつかないアイデア - を元に、シリーズで参加者とともに行い、考えてみたいと思っています。
  • 2012.10.Live Artゲスト予定
    LPACK、池宮中夫、「前後」高嶋晋一+神村恵ほか
  • 2012.10.金曜日トークゲスト
    CAMP(井上文雄)、杉田敦、眞島竜男、秦雅則
  • 【CSLAB+blanClassステューデントナイト vol.8 [代替energy] 参加者募集】
    学校や専攻の枠を超えて実験的な表現の試行、交流の場として、これまでに7回おこなってきたblanClassの定番企画、ステューデントナイトが、2012年11月24日(土)、CS-Lab(東京造形大学)へ出張することになりました。出張にあたって、初の試みとして参加者を公募します。書類選考はしますが、できるかぎり発表の場を提供します。応募者の人数があまりにも多かったり、物理的、時間的、技術的に不可能な場合は展示、出演できないことがあります。その場合でも応募者全員のプランは公開されます。

    テーマ:[代替energy](作品のフォーマットは自由)
    応募資格:現役の大学、大学院、専門学校などに通う現役学生(専攻は問いません)
    応募方法:blanClassの公式サイトから応募用紙をダウンロードし、必要事項を記入の上、メールまたは郵送にて企画プランを提出、エントリーとします。
    応募〆切:2012年10月1日(10月上旬に参加発表)
    ※必要な機材は基本持ち込み、交通費・制作費は自己負担でお願いします。
    ※書類の形式、会場の使い方、注意事項など詳しくは公式サイトで確認してください。

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次回執筆者

バトンタッチメッセージ

Ongoingの小川希さんはアートの世界の切り込み隊長みたいな人です。その強気な姿勢に感心しきりです。
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