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ネットTAMブログ特別企画
「トヨタ・エイブルアート・フォーラム その後の10年」
~エイブルアートの歩みと未来~(5)


【トヨタ・エイブルアート・フォーラム その後の10年】(5)

<滋賀県甲賀市>
やまなみ工房

「変わらない大切な思い。」

あの日のトヨタ・エイブルアート・フォーラムがなかったら、僕たちは今の僕たちとして存在しているのだろうか?

「ないな...」。

うれしいとき、困難に遭遇したとき、いく度自問自答したことでしょう。答えは変わりません。あの日感じたこと、あの時出会った人、フォーラムを通じて学んだことが、僕たちの根底に存在する大切な核心となり今があるのです。

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やまなみ工房は1986年、滋賀県甲賀市に誕生し、障害者無認可共同作業所として知的や精神に障害のある人たちが通い、単価10円に満たない内職を仕事として活動をしていました。しかし毎日同じ作業の繰り返し、月給は3,000円程度。このままでいいわけがありません。僕たちは彼らが生きがいや楽しみをもって取り組める本当にしたいことを見つけるため、これまでの「仕事」や「働く」に対する狭い概念を取り払い、1990年、新たなスタートを切ったのです。
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活動の内容はさまざまです。地域社会や自然と触れ合うといった本来当たり前の機会でさえ、ほとんどなかった彼らには一歩外出することさえ新鮮で大切なことでした。やがて経験は内面を育み、喜びと楽しさのなかで過ごす彼らはさまざまな手法で自分たちの気持ちを表現する機会を得ました。なかでも自由にありのままの自分を表現できる粘土や絵画は彼らをどれほど夢中にさせたことでしょう。
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しかしこれほどまでに生き生きと心豊かにさせる活動であっても、一般社会のなかにおいては対価に結びつくことが難しく、行為そのものの価値や彼らの本質に光があてられることもなく、それどころか批判的な意見さえ多くありました。
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活動の継続が危ぶまれるなか、1994年、僕たちはエイブル・アートの提唱者である播磨靖夫氏に発見されたのです。播磨さんは彼らが日常の行為のなかで生み出した物をアートとして評価し、僕らに発表の機会を与えてくれました。これまで町の文化祭や福祉バザーの片隅に陳列されていた作品は、想像を遥かに超えたすばらしい会場で多くの方々の目に留まり、作品はもちろん、ありのままの彼らが障害者というフィルターを通すことなく1人のアーティストとして社会から評価を得たのです。その状況は内部や関係者の意識を大きく転換することへとつながり彼らの本音に向き合う日常の活動は一定認知されました。
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しかし同時に新たな課題が生まれたのです。それは実践とSTAFFの資質の向上です。当時の僕たちは目の前の彼らがその日楽しく粘土や絵画に取り組む環境を作ることしかできません。具体的な課題を言葉にするどころか、課題を感じることすらできません。自分たちは今のこの日常でよいのか、他にどんなよい方法があるのか、次なる目標をどう見据えればよいのか、漠然としたなか、不安だけが増すばかりでした。それでも作品は生まれます。周囲の期待も広がります。悩みを多く抱えた時期、僕たちはタイミングよく「トヨタ・エイブルアート・フォーラム~障害をもつ人たちの芸術活動の進め方。」に出会いました。

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僕らの取り組みは就労や労働に関わることが困難な重度障害者の余暇的な活動と見なされがちな時代に「芸術活動」と認めること自体予期せぬことでしたが、壇上では美術界や全国の先進的な施設がこれまでの歴史や、実践の事例、今後の可能性について議論がなされていたのです。このようなフォーラムは当時どこを探してもなく、場所を変え、何度も通いました。そして全国のなかで表現活動をしている施設や人がたくさんいること、芸術活動を通してひとりひとりの存在が最大限尊重され、すばらしい実践が社会の中で大きな変化を起こしていること、何よりさまざまな可能性を秘めていることを教えてくれたのです。
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僕たちに迷いはもうありません。今もなお、変わらず活動を続けているのは、フォーラムで学び、確信したことが僕たちの揺るぎない理念となっているからです。フォーラムは多くの人が出会いつながる貴重な場でもありました。フォーラムを通じて同じような志を抱き、今、時代の、そして国内外における障害のある方々の芸術活動の場において中心的役割を担っている多くの実践者が全国各地に存在し、今もつながり合いさまざまな形で先駆的に重要な成果をもたらしていることを僕は知っています。僕たちはこれからも、ひとりひとりの心に向き合い、彼らの幸福に向き合い、小さくもささやかな表現に寄り添いながら、耳を傾け、光を照らしていきたいと思います。
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僕たちを取り巻く状況は25年の歴史のなかで大きく変化を遂げました。しかし25年前、1人の男性が作った人形の表情は今も変わりません。よりよい社会、そして幸福な未来を作るため、僕たちに課せられた責務は重要です。あの日のトヨタ・エイブルアート・フォーラムで学んだことを大切に、これからもがんばりたいと思います。
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(2014年12月24日)
山下完和様.jpg社会福祉法人やまなみ会 やまなみ工房施設長
山下完和(やましたまさと) 
1967生まれ、三重県伊賀市在住。高校卒業後、プー太郎として様々な職種を経た後、1989年5月から、障がい者無認可作業所「やまなみ共同作業所」に支援員として勤務。その後1990年に「アトリエころぼっくる」を立ち上げ、互いの人間関係や信頼関係を大切に、一人ひとりの思いやペースに沿って、伸びやかに、個性豊かに自分らしく生きる事を目的に様々な活動に取り組む。2008年5月からはやまなみ工房の施設長に就任し現在に至る
障がい者多機能型事業所 60名定員(現60名通所)
滋賀県甲賀市甲南町葛木872 TEL0748-86-0334  FAX0748-86-8911 
E-mail atelier@lagoon.ocn.jp 
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