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秋田の最新アート事情>今月のリレーコラム

個人的な話で恐縮だが、春先からかなり東北熱が高まっている。

桜も散る頃福島県の白河に行った際、駅前に佇む松尾芭蕉の像を見た。翁にしては若いなあと思って帰ってきたら、雑誌『サライ』(08年5月号)がちょうど「おくのほそ道を旅する」という特集を組んでいた。全文(現代語訳付)掲載した冊子が付録ですっかりはまってしまった。しばらくして、同僚に『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』という本を借りた。著者の岡田芳郎さんは、かつて電通総研にお勤めで、1990年のメセ協設立時より現在に至るまで大変お世話になっている、芸術文化に深い理解のある方だ。これが読み始めたらやめられないおもしろさで一気に読破し、心は既に山形の酒田に飛んでいた(酒田ではベストセラーだそう。映像化の話も?)。時を同じくして、リレーコラムのバトンがついに東北へ。岩手の武政さん菅沼さん青森の日沼さんと続き、現在秋田を巡回中。

そんなあれやこれやで、東北はすごいぞ、とマイブームなのである(「東北」と括ったら申し訳ないぐらいそれぞれが独自に魅力的)。

・・・いささか前置きが長すぎたが、今月のネットTAMリレーコラムは、秋田でアートスペース「ココラボラトリー(通称:ココラボ)」を運営する笹尾千草さんが書いてくださった。「奇跡のバランスでなりたつ美術の場所」。秋田のアートの動き、人のつながりの様子がいきいきと伝わってくる。笹尾さんにとってのアートマネジメントとは、笹尾さんが言うところの「奇跡のバランス」をうまく維持して盛り立てていくことのようだ。

私は、実に贅沢なこの巡り合わせの間に立って、これらが全体としてよく機能するようにバランスを維持していくことを自らの役目だと考えて活動してきた。言い換えると、何か地域で表現しようとしている全ての人が、ベストの状態でそのイメージを成就できる環境を整えるということを必死にやってきたのだ。

コラムを拝読し、きっとここは発展するに違いないと確信した。外の人を積極的に招くようにしている、とコラムにあったからだ。
ココラボでは別のコミュニティーから積極的にゲストを招くようにした。それは都心部でアートを生業とするプロであったり、農家の人であったり、自転車乗りであったりとさまざまであるが、彼らゲストが吹き込む新しい風によって閉塞感が打破された時、ここでしか存在し得ない、濃密な場が生まれる。また逆に、それがゲストにとってもまたとない貴重な表現の場になり得るところが本当におもしろい。

これまで仕事の関係で、地域に根ざした活動に取り組むたくさんの方々に話を伺ってきたが、光っている地域には、不思議と共通点がある。そのひとつが「外の人間を受け入れる柔軟性」。

いまや有名な九州の温泉保養地では、地元観光総合事務所の事務局長を全国公募。土地にゆかりはなくともやる気とアイディアのある人材を積極的に登用している。「しがらみのない立場でまちのことを考えられる人間を探した」とのことだった。

信州のある地場企業の社長さんは、「地域というのは、放っておくとどうしても一つの方向に収束し固まる傾向にある。絶えず何らかの刺激を投げ入れ、カオス状態を生むことが大事。小さなカオスは地域が変わるための大きな可能性をはらんでいる。また、長く同じ地位にいると守りに入ってしまう。そこで外からの人材=カオスが必要になる。その人材にもいずれ若い世代の持ち込むカオスが必要となる」と言っておられた。実際、社員であるアメリカ人女性のまちづくりにおける活躍を信頼し後押ししている。

笹尾さんのココラボにも、同じ空気を感じる。きっとここでは、大きな可能性をはらんだ小さなカオスが日々生まれているんだろうなと思う。

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